侵入準備


 
窓一つ無い、巨大な要塞が姿を現す
遠く離れた場所でさえも、足下の砂が流れ、足を取られる
辺りは、身を隠す事も出来ない砂漠
警戒を怠ってさえ居なければ、この地程攻め難い場所も無い
「自慢の要塞といった所か……」
どこか馬鹿にしたように聞こえる口調
遠目に見える建物の近くに、車を止め、カメラを向ける一団が居る
『自慢の品なだけに、誰彼と無く自慢したいのだろう』
「誉められた行動ではないが、こちらからしてみれば好都合だ」
ただの観光客として、近くまであっさりと近寄る事が出来る
「さて、後はいつまで大人しくしていてくれるかという所だな」
発掘したタイムテーブル通りに、砂の上に姿を現した
だが、それと同じだけの時間、地上に姿を現して居るとは限らない
目立つ行動を取るつもりは勿論無いが、相手がこちらの都合通り動いてくれるとは限らない
騒ぎが起これば当然彼等だって、手を打つだろう
―――退路を断つ
侵入者を捕らえる上で、一番重要な行動
あの建物はソレを容易に実行できる
砂の中に沈みさえすれば、何処へも逃れる事は出来ない
決して気付かれる事の無いよう慎重に行動しなければならない
物珍しげに、見上げる一団の中へと何食わぬ顔で紛れ込む
あまりにも当たり前の日常になっているのか、中からの視線は感じない
ただ見ている事に飽きたのか、見物客は次第に側を離れ始める
さりげなく視線を交わし、別れ、建物を回り込む
正規の入り口の他に設けられた小さな勝手口
完全に浮上した際に地上に接する場所に現れるソレは、この施設内での細々とした仕事に従事する者達の為の勝手口
扉を開ける為のキーが、未だに同じものだという可能性は低い
かつては存在しなかった軍人も今はいる可能性がある
とりあえず、といった気持ちで近づいた扉が、軋んだ音を立てて開いた

柔らかな夢をみた
夢を見ている事をハッキリと解っている
そんな一言では片付けられない
どこか、何かが違う夢
夢みた内容は
大した事のない、ありふれた光景
だけれど
私達の意識の向こうで、誰かが泣いている気かした

「気が付いたか」
皮肉気な口調が耳を掠める
独特の物言い、良く知っている声
キスティスは跳ね起き、辺りへと視線を向ける
冷たく光る金属の色
硬く無機質なむき出しの床
無意識の内に伸びた手が武器を探す
空を切る手に、視線が動く
そこにある筈の武器が無い
「………サイファー……」
「ああ」
無言の問いかけに、不機嫌そうな声が答える
「そう……」
捕らわれているだけましかも知れないわね
遠く機械が動く音がする
少なくとも、まだ生きているわ
床が震動を伝えてきた
 
 

 To be continued
 
Next