現状確認


 
会場行き交う船の姿が見える
時折交わされる汽笛の音
それぞれの船籍に逢わせてきめられた合図の中に、エスタ籍のものは無い
今は他の船の姿は無いが、エスタに近づくにつれ、他の船の姿を見る事になる
エスタへ入国する際は気を付けなくてはならない
ごく一部に軍人以外へと出された一斉退去命令
何の前置きもなく出された命令は、それだけガルバディアが危険な状態に入った事を意味している
今までは大丈夫だったからといって、今度も大丈夫だとは限らない
まして、ガルバディアが本気で世界を相手にするつもりなら、エスタを監視していない事は無い
―――例え、10年もの間沈黙していたとしても
船長と、一部の兵士達へ密かに命令を下す
安全が確立されていて、尚かつエスタへと向かわない航路を進む
船員達が緊張した面持ちで船を進める
「船の数が多すぎる」
彼が呟いた言葉が、緊張の原因
ガルバディア領域から抜け出すにはまだ時間がかかる

船に乗った人達が慌ただしく動いている
船を動かす為の船員と、そうでは無い人達
よく考えて居なかったけれど
あの人が告げた行き先は“エスタ”
あの時からずっと、国交を閉ざしたままの国
10年も前に滅びた、なんていう噂も出ていた様な国
そんな国に向かう船なんだから、この船の人達は多分みんな関係者だ
辺りの様子を見ていた私の元に1人の船員が近づいてくる
「申し訳ありません、船内へ移動していただけますか」
さりげなく差し出された手が、船内へと身体を向かわせる
何があったのか聞いても、きっと誤魔化されるんだろうな
あの子達が教えてくれなかったみたいに……
「何かあったんですか?」
それでも、何が起きているのか知りたかったから、さりげなく聞いてみる
「ええ、直接的に危険がある訳ではありませんが………」
躊躇う様に言葉を濁して、視線を彷徨わせる
どうやって誤魔化そうか悩んでいるのかもしれない
「詳しい事は、あの方からお聞き下さい」
悔しさに唇を噛んだエルオーネの耳にそんな言葉が聞こえた

奥まった場所にある狭い船室
「不便な場所で悪いが、万が一の為に此処に居て欲しい」
単刀直入な彼の言葉にちょっと笑みがこぼれる
「それは構わないけれど、いったい何が起こったの?」
私を此処に連れてきた人は詳しい事は彼に聞けと言った
今までの経験になぞらえるなら、きっとここでもごまかしと先延ばしの言葉を聞く事に成るんだろうけれど、今回はそうはならない、そんな予感がしている
それはもしかしたら、私がそう信じたいだけなのかもしれない
けれど、部屋に案内して、あたり前の様に椅子に腰を掛けた彼の態度がそう信じさせているのかもしれない
「細かい事まで説明すると話が長くなるから、まずは要点だけを言うぞ」
森の中で始めて会話を交わした時と同じ言葉が繰り返される
「ガルバディアが武力行使を開始した」
え?
「現時点の目標はトラビアだって話だから今すぐ危険だという訳じゃないが、胸を張って安全だとは言えない状況だ」
ほんの一瞬の間を置いて、言葉が続けられる
「お陰で最優先事項が変わった」
いつのまにか煎れられたお茶を渡される
「有り難うございます」
お礼を言って受け取ったけれど、手に持ったままで飲んだりはしない
疑う訳では無いけれど、まだ聞きたい事だってあるから、もしかしたりすると困るもの
そんな私の様子見ても何も言わず、気にした風も無く話を続ける
当たり前の様に与えられる情報の数々
それでもきっと隠している事があるんだろうけれど
始めての経験に、嬉しく思うのと同時に、少しだけ頭が混乱した

波の音が聞こえる
時折交わされる汽笛の音
慣れた筈の震動が、全く違うものに感じた
 
 

 To be continued
 
Next