海上


 
水の上を滑る様に船が進んでいく
目に見える範囲にも、探知機が示す範囲にも他の船の姿は無い
見渡す限り続くのは海の青
ガルバディア軍船を易々と振り切った船は悠然と海上を進んでいた

全速力で横切った船の速度が速すぎ、彼等に手出しする隙が無かっただけかもしれないが、不意を付いたせいか、予想に反しガルバディア軍は何の手出しもしてこなかった
「速いな」
間近から聞こえた声の主は、遠ざかっていく一隻の船を見つめている
「あの分だと、手助けは必要無かったかもしれないな」
尚も速度を上げる船の様子は、確かに追いすがるガルバディア船を振り切るだけの速度差がある様に思われる
けれど、それも砲撃が無かったからに過ぎない
幾ら足が速くても、砲弾が1つでも当たればきっと逃げ切る事は難しいはずだ
………アレが、それなりの戦闘能力を備えた船で無いならば………
「そうですね、あの船ならガルバディア軍の相手位は出来るでしょう」
巧妙に変えられた色や付属物
けれど、船そのものの形はそう簡単に変える事が出来ない
「お陰であの船がガルバディアと関係無い事は判明した訳だな」
以前、捕らえる事の出来なかった船
稀にエスタの周辺を彷徨っていた1船の不審船
「コンタクトを取りますか?」
無線を手にした兵士の言葉に、暫く考え、ウォードは首を振った
『今の状況では、連絡の取りようが無いな』
距離を離されながらも船を追いかけていくガルバディア船の姿が見える
声をかける事自体はそう難しい事では無いが、相手が応じる状況にあるとは思えない
実入りが少ないとでも判断したのか、こちらに向かって来る船の姿は1つも無い
「その内また会った時に声を掛ければ良い」
あっさりとした言葉に、苦笑を浮かべ兵士達が散っていく
再び船がスピードを上げる
ガルバディアの海域を抜け出すまで後少し
波を寄せる海の色が少し変わった様に感じた

両側にそびえる壁
空を覆う様に張り出した、巨石
巨大な船が余裕を持ってすれ違う事ができる程の広い水路
降り注ぐ太陽の光を浴びながら、滑る様にゆっくりと船が進んでいく
ここがどの辺にあたるのか私は知らない
けれど、看板に出てくる人の数が多くなった
穏やかに言葉を交わす兵士の姿だって見える
だからここは彼等の領域
エスタ国内、おじさんのいる場所
心臓が大きく音を立てる
私の心を占めるのは、不安と期待
………近づくにつれて、不安の方が大きくなっている
ずっと探していたと言っていた、けれど………
………もし、変わっていたら?
長い年月は容易に人を変える、大人になるにつれて知ってしまった事実
私が知っているおじさんの姿はあまりにも遠い昔の事
私の身にも色んな事があった、きっとおじさんも同じ
それに幼い頃の記憶は、鮮明だけど不鮮明
俯いて、海面に視線を落とす
きっと歓迎してくれる
そう思っていても、距離が縮まるにつれ、不安な気持ちが大きくなっている
「大丈夫、だよね………」
零れ落ちた呟きに応える人は誰も居なかった

突然、数十分後エスタ港に入港予定の船から、緊急の連絡が大統領官邸に入った
直接の対話を求めた連絡の後
官邸内では小さな騒ぎが持ち上がった
 

 To be continued
 
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