今の状態を、たった一つの感情で表せと言われたならば
それは、きっと後悔になる
慌ただしさや、急展開する状況の中で忘れていた疑問
話と情報の提供を受けていた管理人室に遅れてやってきた2人がおそるおそる切り出した言葉は、忘れていた疑問が重要な手がかりだったかも知れない事を気付かせて……
「……参ったわね」
確認すべき事をしなかったのは誰のせいでも無いミスだ
時間や状況を考えて、エルオーネが居なくなった事に関してあの人達が直接手を出した訳では無いとは思うんだけど……
「うーん、実際に居なくなったのって、どれくらい時間が経ってからなのかな?」
あの後動揺を押し殺して、今度は聞くべき事は残さず聞いた、と思うけれど
はっきりこう、と言えるだけの手がかりは無い
「学園内で抗争が起きた頃と言ってたわね」
起きた頃なんて言っても
「小競り合いの時点ではなく、学園を2分した争いが激しくなった頃ね」
どんな頃合いか詳しい事は聞いていないけれど、“部外者”である彼等が異変に気付くとすれば、それなりの騒ぎにはなっていたはず
そして、その後騒ぎが収まる頃には2人とも姿を消していた
「時間的に戻って来ようと思えば戻って来れるんじゃねーか?」
別れた後、直ぐに合流して、そのままバラムへ向かったならそれもあり得るけれど……
「スコールが実際に連れ去ったと考えるのは、強引ね」
「なんでだよ?」
ゼルとセルフィが不思議そうな顔をする
「あの男が、ここから出ていったのは、比較的直ぐなんだろうが、その間にエルオーネを見かけて、判別するなんて事は不可能だろーが」
「サイファーの言うとおりだわ」
記憶なんて薄れるし、成長だってしている
ほんの僅かな時間で見分ける事なんてきっと出来ない
「………それに、時間的に無理だしね」
不満を口にしようとしたゼルの言葉を遮る様に、不意にアーヴァインが言葉を割り込ませた
………………
「無理ってなんだよ?」
そう、時間は数日の余裕がある
「無理だよ、刑務所からの脱獄の仕事、持ってきたのあの人だしね」
あっさりとした言葉に、何を言われたのか理解できなかった
「………なんだって?」
「うん、だから、オルロワさんだっけ?あの人がガーデンからの命令って伝えてきたんだよね」
………てっきり、バラムガーデンの関係者だと思ってたからさ、みんなも一緒だったし………
次第にアーヴァインの声が小さくなる
……そう言えばあの時点で何の説明もしていなかったわね
「人にあったらまずは情報交換、今度からはそうしましょうか」
怒りよりも脱力感に苛まれながら、ようやくそんな言葉が口をついた

「どういうつもりかは解らなねえが、敵対する気は無いって事だろうな」
初めから順を追っての状況確認
子供の頃の記憶の消失も合わせて考えれば
スコール側からしてみれば、此処に居る人間の殆どは知り合いだったという事になる
殆ど忘れかけた薄い記憶を辿って見れば、ガーデンにいた頃も仲が良いとはとても言えないが、それなりの友人をやっていたような記憶はある
「どっちかというと好意的だと思うよ」
2度も助けて貰ってるもんね
お気楽な言葉にサイファーは眉を潜める
確かにその通りだがな、下心が無かったとはいえねえからな
「でも、どっちにしろ肝心な事が解っていない事は変わりないわね」
確かにエルオーネに関しちゃなんの手がかりも無い、が
「手がかりの在処なら掴んだだろ」
ガーデンに訪れた2人組
1人はスコールと一緒の所を目撃した
もう1人はガーデンに残ったままだった
スコールはエルオーネを探していた
……なら、導き出される回答がある
「問題の彼が連れ去ったのなら、スコールの元に行くはずね」
それなら、スコールの居場所を掴めば良い
「学園長なら知ってそうね」
そう、あのタヌキ親父ともう一度バトルって訳だ
サイファーは不敵な笑みを浮かべ、先ほどの部屋へと向かい歩き出した
 

 To be continued
 
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