確保



 
作動する機械の音がやけに耳につく室内に
目覚めたばかりの彼等の会話が明瞭に聞こえている
声を潜めてはいるが言葉を隠さない彼等の様子からは、仕掛けられた機械を警戒する様子も、機械が仕掛けられている可能性を考えている様子も無い
あまりに無防備なその様子は、
もしかしたら、わざと話を聞かせているのかもしれない等と、逆の可能性を思い出させる
本気で気付いていないにしろ
わざと気付いていないふりをしているにしろ
彼等の会話と、その態度でいくつか解ったことがある
人が変わった様な魔女イデアの様子、SeeD達の友好的な関係
そして、SeeD達と距離を置いた少年少女
知り得た情報から出した結論は
「………呼びたくは無いが、オダイン博士を呼んで来てくれ」
彼等には敵対の意思は無さそうだということ
その上で、話し合いにはどうやら“魔女研究”の第一人者であるオダイン博士が必要らしいということ
「直ちに博士を呼んで来ます」
返答を返した兵士の顔が引きつっていた

「緊急事態?」
宇宙ステーション全体を巻き込んだ感動の対面が終わり
そして語り尽くせぬ程の長い時間の出来事を簡単に話し交わした後
狙いすました様に室内へと現れたキロスが唐突に告げた言葉にラグナたちの表情が変わる
「例によって詳しいことは解らないが、今のラグナ君の状況を予測出来る彼等からの通信だ、間違いなく緊急事態だろう」
エルオーネが見つかったら、スコールとエルと2人一遍に抱きしめる―――
なんて、随分前に漏らしたささやかな願い
そいつを律儀に覚えていて、ほんの少し待ちさえすれば帰還した先の地上でも適ったはずの願い
それをわざわざ、こんな場所まで2人纏めて送り込んで来たあいつらの事だ、大抵の事はこっちが気づく間もなく適切に処理をしている
それをわざわざ知らせて寄越したって事は、よっぽど面倒な事が起きてると思って間違い無いはずだ
幸い、わざわざ宇宙まで昇ってくる事になった元凶―――アデル―――の様子には変わったことは見受けられない
エルが行方不明になってから今日まで何が有ったのか、お互いの話をするには、それこそ何ヶ月、下手すれば何年だってかかる
このまま此処に留まって居る必要は、どこにも無い
むしろ、モンスター達の住処である月や、封印されているとはいえ未だ“魔女”であるアデルの傍にエルを置いておくのは危険が伴う
「来たばっかで大変なんだけどよ………」
「これだけの時間が経過すれば、来たばかりとは言えないだろう」
地上への帰還を告げようとした言葉はからかうようなキロスの言葉に阻まれる
「帰還準備整いました」
そして、タイミング良く聞こえてるオペレーターの声
『此処でやる事は終わった、早いとこ戻ろう』
ウォードが促すように背中を叩く
キロスが企みが成功した時の笑みを浮かべる
「んじゃまあ、さっさと帰還するか?」
決まり悪くそう宣言したら、エルが声を上げて笑った

不安だった
だって随分長い時間が経っていたから
これから私が会うおじさんは、私が知っているその人とは違うかもしれないと思っていた
だって、再会したスコールは随分変わっていたから
時が経てば人は変わる
誰かが言った言葉かもしれないけれど、それは私がこの何ヶ月かの間に体験した実感
かつて共に暮らした子供達はみんな変わってしまっていた
そして私も―――
だからずっと不安だった
実際に会うまで
そして、会ってからも
けれど、目の前にいるのは相変わらずの人達
昔と変わらない言葉のやり取り、記憶にあるままの表情
ちっとも変わらないその姿が嬉しくて、安心して
気が付いたら声を上げて笑っていた

彼等が目覚めてから随分時間が過ぎた
オダイン博士はまだ到着していないが、鍵を掛けた扉を叩き人を呼ぶ彼等の声がだんだん大きくなっていく
いらついたような行動に、このまま待たせておくのも限界だと言うことが感じ取れる
「仕方ない、話を聞きに行くか」
多少の耐久性はあるとはいえ、大して頑丈では無い扉が壊されるのも時間の問題
どうせオダイン博士を引き合わせた所でまともな交渉―――会話―――が成立するはずも無い
先に話を聞いておかなければならないのは分かり切ってはいたが………
面倒な事を俺一人で引き受けるってのはなぁ
上手い具合に席を外している相棒を思い、オルロワは微かな舌打ちを落とした
 
 

 To be continued


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