月の涙
ざわめきと警告音
そして呆然と立ちつくす人々
彼等が見つめる先にあるのは、エスタ大陸上空を行く、巨大な人工物
それはあり得ない筈の光景で
一部の人々にとって、あり得る筈の無いもの
姿を見せつけるかの様に殊更ゆっくりとエスタシティへ向けて移動していく
やがて人々の呪縛が解ける頃、上空からソレは飛来した
「残念だが、君達が望む関係者は今現在エスタには居ない」
単純ながら奧のある質問にSeeD達が返した返答は『どちらにも当てはまる』という事
そして、俺達に言えるぎりぎりの範囲で語ってくれたらしい此処に至る迄の経緯
まぁ、もっともこの辺りの話は話すつもりもなかった部分も入ってるみたいだが………
決して少ないとは言えない、むしろ人数としては多いと言える彼等の集団は案外意思の疎通が上手く行っていない所があるようで、話の持って行き方1つ、話の振り方1つで有る程度の情報の入手が出来た
「居ない?」
最も余り簡単に質問を流すので、彼等は強引に口を閉ざされるはめになっているが………
後ろの方で、発言出来ないように押さえ込まれた彼等が抵抗している様子が良く見える
「そう、つい先日から出掛けている所だ」
何処かコミカルなその様子に奪われそうになった意識を質問者の方へと向ける
リーダー格らしいこの少年も感情を隠すのは苦手らしく、こちらに向けた顔には不満がありありと浮かんでいる
「状況を正確に補足するとすれば、あの人が出掛けている所に彼が戻り、そして彼女がエスタに辿り着いた」
信じるか信じないはそっちの勝手だが、この状況で大統領達が居ない事に一番困っているのは自分達だ
「相談の上、彼女の希望に従って、あの人の元へ全員で出掛けていた」
ぼかした個人名はともかく、追加された表現
その辺りの所で状況を上手く察してくれれば、正直有り難いが………
それにはまだまだ経験が足りない様だな
彼等の表情や気配に内心肩を竦める
SeeDと言っても、全てに置いて秀でた存在である訳ではない
事細やかな駆け引きをこなせと言っても無理があると言う事だろう
「なら、いつ頃戻る予定だ?」
それが解れば苦労は無いんだが、な
大統領が宇宙に滞在する期間は決まって居る訳ではない
宇宙に上がる際決められるのは、最長でどれくらいの滞在という極めて大まかだ
今回も同じ、地上に居る人間が持っている情報は長くても2週間以内には戻るというモノ
行ってみなければ何が起きているか解らないし、何かをやるにしろどうなっているか見てみないことには何をするかも解らない、ついでに何かしなければならない事が起きたとするなら、やってみる迄はどれくらいの時間が必要になるのか判断するのは難しい
というのが大統領の持論だ
疑問が無い訳では無いが、宇宙空間という特殊な事情を考えれば納得出来る事、だと思っている
返答としては、解らないが順当だが………
「緊急事態の連絡は送った、出来うる限り早急に戻ってくる筈だ」
俺の代わりに難題に返答が返された
「そうですか………」
どうする?と言うように視線を交わし始めたSeeD達の姿にほっとしながらも苦笑する
彼等が居る場所はエスタでは無いどころか、この地上の何処でも無い
………なるべく早急にって、結局はどうなるか解らないってのと同じだけどな
SeeD達の視界の外で同じ事を思ったのか、相棒が含みのある笑みを浮かべた
突如施設内に響き渡る警告音
緊急事態を告げる赤い光が激しく点滅を繰り返す
「何が起きた!?」
地上へ向けてラグナ達を送り出そうとしていた職員達が慌てて状況を確認に走る
「―――月の涙がっ」
誰かが鋭く息を飲む音が聞こえる
正面の壁へと映し出された月の表面
おびただしい数のモンスターが集い月を離れようとしている
角度を変える事無く映し出されたモンスター達の進行方向は、ここ
「月の涙がぶつかるぞ!」
「全員緊急退避、急いで脱出しろっ」
騒然と動く人々を余所にゆっくりと月が涙を零し始めた
To be continued
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