会議1
「長い間またせた様で悪かったな」
巨大な会議机の正面―――上座―――へと座った男が声をかける
席と言葉の内容から察するに、そこに居るのはエスタ大統領
仲間達の間から小さな声が上がる
見覚えのある顔
自分達が知っているよりも、幾分歳月を重ねた姿
―――ラグナ
「ラグナ・レウァール、エスタの大統領をしている」
人好きのする笑顔に迎えられる
周りの奴等の緊張が少し削がれていく
「話の大体の所は聞いたが解りがたい所が幾つかある、悪いが詳しい事を話してもえらるか?」
ラグナの視点がイデアの方へと向けられる
「できれば“魔女”に関する事を重点的に」
エスタの役人達の視線の中でイデアが1歩前へ進み出た
イデアの長い説明が始まるとほぼ同時に、オダイン博士からの報告書と分析結果が送られてくる
幸い―――なのかどうかは実際に解らないが―――オダイン博士本人は、調べたい事があるとの事でここには居ない
代わりに彼の助手が双方の状況や情報を送り合っている
状況が状況なら信じ難いだろうイデアの話とオダインの解りがたい報告書を補填する質問の数々である程度の事実が浮き上がってくる
未来の魔女、アルティミシア
時を隔て魔女を操る“魔女”
「全ての元凶は、そいつか………」
「憶測でしかありませんが」
控えめなイデアの言葉にラグナが内心否定しているのが解った
―――憶測なんて筈はない、ソレが真実
全ての元凶、過去から続く全ての出来事を引き起こした人物
魔女アルティミシア
その人物の名前は知っている
何処の誰とも知れない謎の存在
魔女アデルが、エスタを独裁する以前
他国へと侵略を開始する以前
平穏な生活を行っていた時に残した名前
独裁時代に自らの名前として名乗ったことのある名前
ある日突然人が変わったと、書き残されていた記録
イデアの姿が目に映る
語られた言葉の数々、アルティミシアから乗っ取られたという意識
残されていたアデルの記録
アデルが執着したという、後継者探し―――無差別な少女の誘拐
今になって解る数々の符号
魔女アルティミシア、魔女という存在を操る“魔女”
間違いなく、全ての事件の元凶
「とにかく、そいつをどうにかしない限りはどうにもならないって事だが………」
本人が存在するのは遙か未来
アデルの様に封印するにしても、本体に近づけないのならば意味は無い
他に手があるなら今この世界に存在する全ての魔女は封印するという手段
………乱暴過ぎるな
それに、それじゃあ意味がない
時を越える力がある以上、封印したところでそれ以前の時間へと逆戻りされれば全く意味を成さない
「それで、アルティミシアの目的は何なんだ?最終的には何を望んでいる?」
幾度も幾度も、過去のこの時間近辺へと姿現す理由
それが、この世界にエルが居るからだっていうのは、認めたくは無いが解った
「それは、時間圧縮を行いそして世界を滅ぼすこと」
イデアの顔が微かに曇る
「時間圧縮?」
目の前のディスプレイに、オダイン流の解説が現れる
時間の流れが圧縮された世界、過去も現在も未来も全てが同時に存在し、全てが存在しない世界
良く分からないが、大変な事になりそうだって言うことは解った
ついでに、その結果どうにかして世界を滅ぼす事もできるらしい
だが、そんな世界を手に入れた所でアルティミシアには何の得がある?
「彼女は、未来の魔女は世界を憎んでいます、死しても尚強力な思念を残す様な強い憎しみ」
そいつは凄そうだけどな………
「死しても?」
「ええ、魔女は魔女である以上死を迎える事は出来ませんけれど………」
イデアの語る言葉がゆっくりと耳に響く
オダインの助手が、大あわてで奴の所へ情報を送っている
死にかけていた魔女アルティミシア
それは誰かが“魔女”を倒した証
誰かの身体を乗っ取った姿では無く、イデアはその本人と出会っている
それは、魔女自身が過去へと移動した証
これは多分、これから先の重大なヒント
「オダイン博士が来るそうです」
会議室の中を微妙な空気が流れる
わざわざ来るっていうんだ、何か思い付いたってことだろ?
「んじゃあ、オダインの奴を待つか」
To be continued
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