魔女アルティミシア9



 
魔女が姿を変えた幾つもの魔物が、崩れていく
1体1体意志を持つ魔物達は、逃げだそうとする者と反撃しようとする者がごっちゃになって統制が取れていない
「気持ち悪いよ」
様々な声を上げながら、彼等はその1体1体に攻撃しとどめを刺していた
目に見えていた最後の魔物にとどめを刺した時、まるで分解するかの様に魔物が崩れ落ちた
「どうなってんだよ」
崩れ落ちた魔物の中から現れた魔物の複合体
幾重にも重ねられた魔物が咆吼を上げた

外郭がこぼれ落ちていく
私を覆う何かが零れていく
1つずつ離れていく、誰かの意志
感情
思い
そして、記憶
私を私として構成していたものが消えていく
思うように動かなくなっていく肉体とは裏腹に、軽やかに感じる身体
私であったもの、私では無くしていたもの
1つ1つが崩れ落ちて
そうして、私は思い出していく
私が失っていたものたち
“私”という人間
余分なものが抜け落ちていく
誰かの憎しみ
誰かの怒り
私ではない者達
深く深く食い込んで、私を作り替えていたモノが少しずつ消えていく
身体に聞こえる幾つもの音
私が壊れていく音
私は死ぬのだろうか?
………私は死ねるんだろうか?
幾つもの記憶が脳裏を過ぎる
誰かの記憶、私の記憶
誰かの絶望
―――私の絶望
幾つもの苦しみ、恐怖、悲しみの記憶が襲ってくる
記憶が蘇る
遠く忘れていた
忘れていたことも知らずにいた記憶の数々
遠い昔の日、魔女の力を継承したとき
―――幾代にも渡って続いた絶望の時
私の周りの全てが変わったとき
―――魔女となったその時に、世界はその存在を全て否定した
唇が言葉を紡ぐ
誰かへ向けて
悲しみと絶望を詠いあげる

地面へと零れ落ちた筈の魔物の姿が見えない
相変わらず目の前には魔物の複合体が存在していて、その1体1体が誰かの攻撃に倒れ、崩れ落ちている
また、魔物がこぼれ落ちた
何気なく目を向けていた魔物が崩れ落ち、ふいに微かな光を放ち宙へと消える
実体じゃない
知覚したものを認識するのを待っていたかの様に
相対する“敵”を中心に光の爆発が起こった
 

 To be continued


Next