はじまり5



 
―――力が欲しい
それは強い願い
―――力が欲しい
ほんの一瞬抱いた真実の想い
それは熱病にも似たほんのひとときの感情
私はその事を良く知っていて………
知っているからこそ、その思いを利用した
ほんのひとときの感情が消えるよりも早く
ほんのひとときの感情に心が捕らわれた時を狙って
強引に力を渡し歩いた
私の中に蓄積されていた魔力が尽きる迄幾度も幾度も、幾人もの人へ

ガンブレードを構え対峙する
空ろな目をして“魔女”が立ちつくす
海風が吹く度に身体が左右に揺れる
立ちつくしていた“魔女”の右手が上がる
何かに操られているかのようなぎこちない動き
小さく魔法の火花が上がる
ぎこちなく動く身体でも、魔力が集まっている
サイファーは無造作に刃を振るった
“魔女”の身体が大きく揺らぐ
濁った視線がサイファーを貫く
サイファーへと顔を向けた“魔女”の唇が微かに動く
呪いの言葉か、恨み言か………
サイファーが不適な笑みを浮かべる
どっちだって構わねぇが、そろそろ
「くたばりやがれっ」
渾身の力を込めた一撃が振り下ろされた

魔物達から搾取した力は大きすぎた
抱いていた感情の強さの問題なのか、それとも本当に資質があったのか解らないけれど、哀れな犠牲者へと魔力を渡しても私の身体から力は消えなかった
私は、残った魔力を魔物達へと返しながら次の犠牲者を捜し歩いた
そうやって、世界を渡り歩き、幾人もの相手へと一方的に力を送りつけて………
そうして、私は全ての力を失った
遙かな年月の果てに、私は“人”へと戻ることが出来た
―――多大なる犠牲の元に

辺りの様子が変わる
「そうして私は人としての平穏を手に入れた」
周りに在るのは漆黒の空間
「罪を意識することなく、ただ静かな時間を生きた」
何一つ存在しない無機質な空間
取り囲んでいた魔女達の姿も声も聞こえない
「そうして私は“魔女”の事さえも忘れ去った」
“魔女”は辺りの様子に慌てたようにスコールの手を引き歩み出した
 

 To be continued


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