はじまり6



 
幾人もの犠牲者を出して、私は安らぎを手に入れた
当たり前の“人”としての時間
人としての暮らし………
怪我を負い
病気をし
年を取り………
私は失っていた全てを取り戻した
………取り戻したように見えた
“私”という存在の命が尽きるその時まで
私はかつて自分が何者であったのかを忘れていた
そして、何をしたのかも………
「私の代わりに生まれた幾人もの魔女達、時が経つにつれ、彼女達も私と同じ苦しみと後悔を味わったわ」
“魔女”になるということは“人”では無くなるということ
あの時の私の様に、死ぬことも出来ず長い時を彷徨い歩くということ
そして、それを行ったのは“私”
彼女たちの嘆き、恨み、悲しみ………
力を持った感情は呪いの言葉となって私へと向けられた
それは、私の死と共に発動したわ

手応えはあった
だが、目の前に居る“魔女”の姿はほんの少し揺らいだだけ
相変わらず意志のない瞳がサイファーへと向けられている
ゆらゆらと揺れる身体が、興味を失ったとでもいうように背を向ける
サイファーの事などどうでも良いとでもいうように、ぎこちない足取りで“家”へと足を進める
「てめぇっ」
振り下ろした刃が魔女の身体を通り過ぎる
水を切る様な重い抵抗感
実体が無い訳じゃねぇ
だが、こいつは………
どこか存在感の無いその姿に心がざわめく
まるで本体がどこか別の場所にでも居るみてぇだ
反射的に引いた引き金が、高い音を立てた

「死を迎えた筈の私は、“魔女”の中に居た」
世界中にいた幾人もの魔女の中に、私は存在していた
何をする事も出来ず
ただ、ただ、魔女の中で私は存在していた
長い間、それこそ気が遠くなるような長い間………
「私はただそこに居た、そうして全ての“魔女”を見ていた」
私にはどうにも出来ない時間の中で理解したことがあった
「“魔女”と言っても永遠に続く命を持つ訳ではないこと、力の元になった“魔物”と同じだということ」
長い時の中で、引き継がれていった力、そして消滅していった力
その全てを、私はただ見守っていた
―――この時が来るまで

「最後まで“魔女”へ融合していた魔物は貴方達がそぎ落とした」
スコールの周りに、無数の時間が戻ってくる
めまぐるしく交わる、過去と未来
「遠い未来の果てで力を失い、残っているのは魔法の残滓」
“魔女”達の声が遠い
“魔女”達の視線が薄れている
「私は始まりの魔女、そして最後の魔女………」
記憶に在る1つの景色が近づいてくる
―――今度こそ、終焉を
“魔女”の声が弾けた
 

 To be continued


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