はじまり8



 
“魔女”が魔法を紡ぎ出す
倒れ伏しそうになりながら放たれる攻撃
身体を貫く痛み
すぐ側で声が聞こえた
聞き覚えのある声が、自分の名前を呼ぶ
―――なんだ?
声の主が誰だったか思い出すよりも早く、サイファーの視界の中へスコールが割り込んできた

全ての力を
あらゆる力を使い果たしましょう
この身体に残された力はほんの僅か
全ての力を使い果たす時
私は“魔女”では無くなる
もはや“魔女”が引き継がれる事はなく―――
この世界、この時代は最後の魔女達が力を削りながら生きていく
―――遠い時間の果て、最後の魔女がその全てを終える迄
ほんの少し先の未来で“私”が同じ歴史を繰り返し
力の欠片しか持たない“魔女”は滅びを迎える
その未来の為にも
最後の世界を実現する為にも
さあ、本気の戦いを始めましょう
ここでこの身体が全ての力を使い果たすまで
―――慌てたような声が聞こえる
―――この時間に存在する人々の声
心配はいらない、それほど時間はかからない
力を使い果たす迄、後少し
そうすれば“魔女”は滅びを迎える
―――気配が近づいてくる
―――螺旋の時間を歩み続けた最初の魔女の気配
身体の奥底に残っていた全ての“力”を結集させる
“魔女”の全ての力を解放する
最後の力
最後の魔力
「さあ、私を倒しなさい」
私の身体を2つの刃が貫いていく
そして、最後の魔法が完成する
混ざり合った時間を元へと戻す最後の魔法
さあ、自分の時間へと戻りなさい
私の意識が拡散していく
幾度か体感した“死”の瞬間
“魔女”が命を終え
そうして“私”は“魔女”の中へと取り込まれる
幾度か体験した瞬間
死しても死ぬことの出来ない、最後の呪い
そうして
“私”は“魔女”の中で力を引き継ぐことなく時を終えたその姿を目にしていた

ごく普通に立っている事もままならない“魔女”の姿がある
まるで亡霊の様な姿
これが、死ぬことが出来ないという“魔女”へと課せられた呪いの姿
「お前、どこから沸いて来やがった!?」
攻撃を受けた際の衝撃を振り払ったらしいサイファーが“魔女”へと攻撃を仕掛けながら問いかける
どこから来たか、なんて
「解るわけ無いだろっ」
さっきまで居たのは混乱した時間の中
時間圧縮の時の果て
「元の時間に帰ったんじゃなかったのかよ」
避ける術の無い身体が、刃を受けて揺れる
それでも倒れる事のない“魔女”の攻撃が飛んで来る
わざとふれあわせた刃が鋼の音を響かせる
―――戦いの音に、近くから聞こえた声が止む
慌てたような声と足音
そして、気配
戦いに気が付いた“大人”が“子供達”を避難させたんだろう
“魔女”の元から強大な力が沸き上がる
「いくぜ」
サイファーと目が合う
魔女の身体から力が放たれるのと同じタイミングで放った攻撃は、魔女の身体を貫いた

支えを失った“魔女”の身体が崩れ落ちていく
“死ぬ事の出来ない”“魔女”の命が失われ、生きてきた不自然な時を伝えるかのように姿を失っていく
背後で、息を飲む音が聞こえた
 

 To be continued


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