英雄とモンスター(2 SideL)


 
未来の魔女も倒されて数ヶ月
エスタは、モンスターに荒らされた国の復興と、国交に明け暮れていた
モンスターは、とりあえず街中からは一掃され、街は以前の機能を取り戻していた
国交も、エスタ高官達の並ならぬ努力により、順調に進んでいた
一段落ついたこの時期、エスタ政府は、モンスターの実態調査に乗り出す事を決定した

―――――エスタ大統領官邸―――――
「そうだな……それでどの辺があやしいって?」
ラグナは、数人の役人達を集めて、打ち合わせをしていた
「人が近づかない場所となると、自ずと場所は限られてきます」
エスタ市街地の地図を広げ場所を指し示す
モンスターの実態調査といっても、ただ闇雲に街中を見て回る訳にもいかない
「まずは、この辺りの………」
モンスターが潜んでいる可能性のある場所をピックアップし、そこを重点的に探す必要がある
役人は、示す場所の特徴を丁寧に説明していく
「やっぱり、あれだな、人が滅多に近づかない場所」
ラグナの言葉に、周囲の人々は同意を示す
人々がよく立ち寄る場所では、たとえモンスターがいたとしても、誰かが発見し軍に知らせる
「人が近づかないということになりますと、この辺りかと……」
指が数カ所の地点を指し示す
いずれも、人々の記憶にそこがあるという認識さえないような、そんな風に密やかに存在する場所だった
「まずは、そこを重点的に調べる事にしよう」
「では、そのように………」
ラグナ達の決定に、数多くいる秘書官の一人が、軍に知らせを入れる為に、退出する
細かい場所の算定と、資料を集める人々のざわめき
方針が決定してしまえば、資料が集められるまでの間ラグナは特にすることもなく、忙しく動く人々を退屈そうに見ていた
時計が時間の経過を告げる
………遅いよなぁ?
告げられるはずの待ち人到着の報は届かない
「……………でさぁ、まだか?」
脇を通りすぎる補佐官へ問いかける
「まだだ、到着しだい連絡が入るはずだ……」
何が、とも言わなかった、ラグナの言葉に、何の事かと、聞きもせずにキロスが答える
『それに来るのが彼だとは限らない』
「それはそうなんだけどよ……」
椅子に凭れたラグナは、動きやすそうな普段着を着ている
目に入る天井がまぶしい
「確かに、わざわざSeeDを頼んだんだ、来るのがスコールで無ければ意味はないな」
意地の悪いキロスの言葉
SeeDに頼むのが一番確実だって、賛成しただろうが……
本当は国の兵士で遂行できる仕事だが、突如襲われた場合の危険性の回避等を考えれば、プロに頼んだ方が効率はいい、というレベルの話だ
そうだよな………単にモンスターの生き残りの調査と、排除ってんだからな
金かけて、頼むような仕事じゃないよな……
………………俺一人でもできるし……
それに一ヶ月ばかり、モンスターの出現がないということは、ほぼモンスターはいないと思ってもいいはず
「………いやーな予感がするんだよなぁ〜」
どうも、すっきりしない
「……スコール君がこない、という予感の方か?」
思わず漏らした独り言にキロスがいやなつっこみを入れる
………………………
辺りの奴らも不吉なはずの俺の言葉にも気にする様子がない
本気にしてないだろう?
「大丈夫ですよ、きっと、ガーデンの方でも少しは気を使ってくれますから」
お前達、俺を何だと思ってるんだ?
ラグナはがっくりと、脱力した
………………スコールに来て欲しいけどさ………
本当は、シドと以前に会った時に
利用する事があったら、是非スコールを回してくれ
というお願いはしていた
覚えてるかなぁ〜、覚えててくれてるといいなぁ……
久しぶりに顔位見たいもんな

「大変ですっ!!」
ラグナがあれこれと感傷に浸っていると、ものすごい勢いで、扉が開かれた
蒼白になりながら、先ほど軍へと向かったはずの秘書が飛び込んでくる
「どうした!?」
青ざめた顔色に一気に空気が張りつめる
「モンスターが現れました」
なんだと!
ラグナはイスを蹴立てて立ち上がった
「どこにだ!?」
室内は騒然としている
「ショッピングモールです」
悲痛な声で告げられたその場所は……
最悪だ
くそっ、こんな時だけ勘があたる!
『タイミングの悪い』
ウォードの言葉に、ラグナは頷く
「いかが致しましょう?」
「緊急事態だ、今すぐに兵を向かわせろっ」
命じながら、ラグナは扉に向かい歩き出した
「はいっ!」
ラグナの脇を駆け抜けて、秘書官が伝令の為に走る
「おいっ、人々の安全の確保を最優先にするんだぞっ」
最後まで話を聞かずに行ってしまった相手にラグナは、慌てて追加する
廊下の先から
“わかっています”
の声が聞こえる
「それと、家から出るなって警告をだしとけ」
警備兵が差し出した愛用のマシンガンを受け取る
「それは、私が引き受けよう」
キロスの言葉に振り向き頷く
「ウォードは、兵士達の方を頼んだぞ」
右手を上げて、了解の合図をよこす
半ば扉を出ようとしたところで思い出す
「………もし、SeeDが間に合うようだったら、現場に急行する様に伝えてくれ」
ちょっと任務が変わってしまうが、その辺はきっとこだわらないだろうし
「はっ、了解しましたっ」
気合いの入った返事にラグナは満足し、緊迫した空気の中、モンスターが現れたというその場所へ、一人急行した

 
 
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