英雄と犯罪者(7)


 
「あなたがた二人は再訓練ということで……」
スコール達がエスタから戻ると、シドが出迎えた
そして、スコールの報告の後に、エスタから同様の連絡が入っている事を告げ、もう一度別の日に訓練を執り行う事を告げた
甘いな
スコールには、彼等がもう一度訓練を受けたところで満足のいく結果を出せない事が解っていた
「今日のところは、部屋に戻って休む様に、後日担当教官から、日程の連絡が行きます」
彼等は指示を受け敬礼を返す
きっと、場所も内容も今回とは全く違ったものになるだろう
そして、それは、良い方へ変わるのではなく
簡単に形式的なもの
スコールは、立ち去る二人の背中を見つめた
「あ、スコール、あなたには話があります、一緒に来て貰えますか?」
スコールは、歩き出すシドの後についていく
「彼等には、ああ言いましたが、今回の事も評価に含まない訳にはいかないんですよ……」
二人の候補生の報告を求めるシドにスコールはありのままを話す
無論個人的な意見は一切排除している
二人をかばう事もなければ、悪く言うこともない
………あの事の連絡は行っていないのか?
シドとスコールは、新たに設置された学長室へとたどり着く
扉が閉まる
「ところで、エスタでの出来事ですが………」
神妙な顔をして向き直る
人がいる場所では話せないということか……
話の内容を考えれば、それが自然な事なのだろう
「彼の犯罪者が、ガーデンの元教師であることは内密にお願いします」
申し出にスコールは、同意する
元であろうと、犯罪者がいたという事実は、悪評につながる、そして、同時に、そういった人物を処罰せずにいたという事は、いくら戦時下の大変な時期だったといっても、重大な問題として取り上げられるだろう
いくら、SeeDが個々人の意志によって、行動する存在だと主張しても、ガーデンに所属するとして責任を求められるように
彼等の事もまた、ガーデンには一切関係ない事だと言っても聞き入れられないだろう
「状況が状況だったとはいえ、随分なミスをしたものです……」
自嘲するような独り言が続く
……………………
いつまでいればいいんだ?
スコールは、シドの言葉で、ガーデンがエスタに複数の借りがあるらしい事に気づいた
「まあ、結局は、相手がエスタで良かったのですけれどね……」
エスタは、どこの国よりもガーデンの実状を知っている
それでいて、一切内部に干渉せず、ガーデンの自治権を認めている
今度の件もエスタだからこそ、ガーデンと現在も関わりを持っている可能性を否定できたと言える
そして、シドはスコールを真剣に見つめる
「ここで言った事は内緒にしてくださいよ」
内緒なのは、借りがある事か?
それとも、教師達の末路の事か?
スコールの返事を待たずにシドが続けた
「さて、一つ仕事を頼みます」
仕事?
任務ではなく仕事という言葉を使った事でスコールは、今回の件に付随した出来事である事を悟る
「エスタからの連絡によれば、エスタ国に行かなかった人員が存在するようです」
……だろうな……
人数から言って、他にも人がいておかしくはなかった
「場所も確定済みです、帰ったばかりのところ申し訳ないのですが、いち早い行動が求められます」
確かに、時間をかけて気づかれると面倒な事になる
もし、エスタで組織の人間が捕まった事が判明したら、彼等はいち早く逃げ出すだろう
そうなると、顔も手がかりも知らないこちら側は圧倒的に不利になる
「彼等の身柄を拘束してきて貰えますか?」
スコールは二つ返事で承諾した

「で、結局のところ、労せずして大金が舞い込んだ時の事がわすれられなかったってことだろ?」
取り調べの結果を報告に来た兵士にラグナは問いかける
「ガーデンの再興や、復興などと言っているようですが、そのようです」
人をさらって、モンスターまで飼っていて、そんな言い訳通用しねぇよな……
「それでごまかせるとでも思っていたのかね?」
思ってたら、大したものだよな
「で、村人を連れ去った理由は?まさか、身代金が目的なんてことはないだろ?」
いくら金を第一に考える連中でも、自分の身を危うくするようなことはしないだろう
「それが………」
盛大なため息を一つ
……ため息をつく程馬鹿らしい理由なのか?
「単純に労働力が欲しかったようでして………」
……………
労働力?……純粋な労働力ってこと、か?
「日々の雑用を行う為、との……」
自分の手で何かするのは、いやだってことなんだろうけどな
「誰かに何かをさせるのが当然だと思ってるんだろうな」
呆れた奴らだ
ま、そんな馬鹿の事はどうだっていいけどな……
「肝心の村人の方はどうなんだ?」
犯人が、狂信者でも、ちょっと抜けた野心家でも、それはこの際どうでもいい
「全員無事でした」
「それは何よりだ」
……無事でなかったら、あれだけ面倒な手順を踏んだ意味がない
大げさな程人間を出して、わざわざ複雑(?)な作戦まで立てて……
キロスとウォードがいれば充分だったよな……多分……
もっとも、強固な反対にあったおかげで、ああいった事になったのだが……
「ただ、精神的な衝撃が大きかった模様で……」
「そうだろうなぁ〜」
一般人だ、それは、精神的にショックもうけるだろうな
村で生活するのはきついかもな……
「兵士の派遣を要請しています」
「あ?」
兵士の派遣??
ラグナは唖然として、彼の顔を見つめた
「エスタ市内への移住ではないのかね?」
ラグナの疑問をキロスが代弁する
だよな、普通安全な場所への移住を希望する、よな?
「希望は兵士の派遣でした」
疑問を否定する答えが返ってくる
「………なるほど……」
……案外タフなもんだな………
「いかが致しましょう?」
どうするも何も……
「希望しているんなら、そうしていいんじゃないか?」
「では、そのように」
報告を終えた兵士が退出していく
「ま、今までよりは、確実に安全にはなるだろうな」
ラグナの言葉に人々はとりあえず、同意を示す
「大統領、ガーデンから連絡が入りました」
連絡を読み上げる秘書に注目が集まる
逃げ出した犯罪者の後を付け進入経路や犯罪組織の居場所を確認した後、場所がエスタ国外であった為、もう一方の当事者というべきガーデンに事件の件も含め残党の処理を依頼していた
「残党の件ですが、仲間割れが原因と思われる戦闘ですでに組織は崩壊寸前だったようです」
……………仲間割れ………
そっか、仲間割れ、かぁ〜
「その隙に乗じたSeeDの活躍により、全員の身柄を確保、後日引き渡すとのことです」
SeeD…スコールだろうな……
ガーデン側でも今回の件はあまり人に触れ回りたくないはずだ
「結局こっちに引き渡す事にしたのか」
ま、事情を考えればそれが無難な選択だろうな
捕らえたら捕らえたで、始末に困るだろう、それならば、エスタからの依頼という事にしてしまえばすべてが丸く収まる
「で、いつ来るって?」
「……それが………」
秘書の顔色が曇る
………実は、逃げられたとか言うんじゃないだろうな??
スコールの顔が思い浮かぶ
……スコールに限ってそんな事はないか
「すでにこちらに向かっているそうです……」
………………
一瞬の静寂
受け入れ準備、間に合うのか?
現実を逃避するように変な事を考えてしまう
我に返った人々が大騒ぎする中、ラグナはそっと、天井を見上げた
………また、怒らせたかなぁ〜
スコールは、きっと気づいただろう
キロスとウォードの視線を痛いほど感じる
壊滅状態だったその理由が仲間割れではないことを
覚悟した方がいいかな……
見上げた天井はまぶしい程白かった
 

 
 
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