英雄と契約
(存在)
神殿の奥深くから感じる気配
彼は、その存在を誰よりも強く感じていた
彼が契約を交わした人間は、その存在の元へと足を進めようとしている
―――もうすぐ………
自分たちが長い間待ち望んでいた時が近づいてくる
―――もうすぐだ………
適度な緊張
徐々に濃厚になる気配
礼儀を守らない人間に向けた怒りの波動
遙かな昔、周囲を慌てさせたその感情すら、懐かしく感じる
近づく目覚めの時
人間達が必死で戦う中、彼は穏やかな気持ちで戦いを見守る
その時が来るのは時間の問題
自分がここにいる限り、それが確実に行われる
彼はそのことを知っている
身近に感じられる人間達の焦りの中
彼はその瞬間を待つ
刻々と時間は過ぎていく
遙かな過去、取り交わされた契約は、人々の脳裏から忘れ去られている
彼の心の奥底に徐々に生じる不安
―――まさか、諦めは………
じわじわと広がっていく焦り
―――早く、私を呼び出さないか
どれほど焦り、呼びかけても、彼の声は届かない
―――まだ諦めた訳ではない
何度も繰り返す内なる声
気持ちを落ち着かせながら、この場に仲間達が居ない事を惜しむ
さぞ、心強く
なにより、共に喜ぶ事ができただろう
さまざまに思考を巡らす彼の元に、待ち望んだ時が近づいてくる
驚愕に満ちた思考
ほんの一瞬の混乱
そして―――
待ち望んでいた召還の声
彼は、その力を解き放った
発現することなく発動された力
力の波動が周囲に広がっていく
同時に、今まで気づかなかった小さな存在に気がつく
神殿の奥から感じる気配と同一の波動
口元に浮かび上がる苦笑
―――思ったよりも慌てていたということか
用意されていたもう一つの鍵
遙か昔、取り決められていた約束
眠りを呼び覚ます鍵
穏やかな気配が周囲に広がっていく
――――――――――――
懐かしい声が聞こえる
そして
声が優しく語りかけてきた
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