英雄と人形
(相談)
―――依頼がある
その言葉一つで強引に呼び出されたエスタ大統領官邸
その1室で、スコールはラグナと向かいあっていた
『怪しげな連中が居るんだ』
2人きりの部屋の中で不意に切り出された言葉
その相手を探る事が依頼内容かとも思ったが、そうでは無いらしく、細かな状況が報告される
話を聞くほどに沸き上がる違和感
不審な行動の数々
そして、思い当たる一つの依頼
本来なら、部外者か、同じSeeD同志でも極秘にしなければならない依頼内容
「どうかしたか?」
問いかけの言葉に、視線を合わせる
何か情報を聞き出そうという意思の無い視線
「それでな……」
僅かな沈黙の後に、何事もなかったかの様に話を続け出す
……………
まだ依頼を受けた訳じゃない
持ち込まれた依頼は、信用出来ないものだった
それなら………
「一つ心当たりがある」
話をしても問題は無い筈だ
突然の依頼
重なり合った偶然に見える幾つかの出来事
導き出される結論
「モンスターを利用するとすると、何を出来る?」
独り言の様な小さな問いかけ
モンスターを捕らえ、集めている理由に対する純粋な疑問
「出来る事………」
モンスターの事をハッキリと断言出来る程、個々の特徴に詳しい訳じゃない
幾つかの個体に対する特徴は知られてはいるが、その知られた特徴も、モンスターの弱点や攻撃方法等
知っている事はモンスターから身を守る為の術がほとんど
モンスターの利用方法なんか思い付かない
腰掛けた椅子が微かに音を立てる
考えるスコールの様子を見て
「昔、モンスターを手なずけようとした奴が居たそうだ」
天を仰いだ姿勢で、ラグナが話す
「詳しい内容は一つも残ってないが、実験は失敗に終わったそうだ」
窓の外を飛ぶ鳥の姿が見える
「失敗の理由は、モンスターの凶暴性を抑える事がどうしても出来なかったから、だそうだ」
視線をゆっくりとスコールへと戻す
「お前はどう思う?」
――当たり前の事だろ
モンスターが人を襲うのは当然だ
考えが顔に出たのか、ラグナは答えを聞かずに頷いてみせる
「そう、その当時の人々も同じ事を言ったらしいぜ」
「モンスターは人に害を与える生き物の事、モンスターは意思の疎通が不可能な凶暴な生き物の事、もしモンスターを手懐ける事が出来るなら、ソレをモンスターとは呼ばない」
宣言する様に幾度か聞いた事のある言葉が告げられる
「前後の関係が忘れられてもこの部分は聞いた事あるだろ?」
置きっぱなしの渇いたカップが脇に退けられる
「モンスターに対する認識ってのは、理由も無く人を襲う凶悪な生き物ってところだ」
長い間変わる事の無い認識
その事を解っていて、モンスターを利用しようというならば、その利用方法は一つしか無い
「モンスターによる無差別攻撃」
「憶測だけどな」
多分理由としては、それほど外れては居ないだろう
「という訳でだ、早急に相手を特定する必要があるんだが――」
わざとらしい程にこやかな笑みを浮かべている
「依頼を受ければ良いんだな?」
本体かどうかは解らないが、相手に繋がる線が存在しているのならそれを利用しない手はない
「面倒な事になるとは思うが……」
「別に……、構わない」
どっちにしろこの件に関しては詳しく調べる必要があったし、きっと似たような選択する事になったはずだ
ただ、問題なのは……
「ああ、とりあえず俺からの依頼って事にしておいてくれ」
「…………解った」
問題になる依頼人についての問題も無くなったのは良いが、依頼書が必要になる
「内容はどうする?」
「適当に動きやすいものを作ってくれて構わないぜ」
有り難いとも言える申し出に複雑な心境を隠しながら頷きかけた身体は
どうせ、依頼書なんてあってないみたいなもんだろ
ラグナの言葉で硬直したように止まった
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