英雄と人形
(追跡)


 
突然の侵入者
つい先ほどまで、静寂を保っていた筈のこの場所が多くの侵入者によって荒らされている
誰も居なかった筈のこの場所に突然現れた兵士達の姿
知られるはずの無いこの場所がどうやって知られたと言うのだろう
モンスターを操るという私の画期的なこの研究を奪おうとしている
研究の成果を渡す訳には行かない
あれは私にこそ相応しいモノ
長年、研究を重ねてきた私だけが使う事の出来る技術
私の為だけに用意されたものだ
あの男達に頼ったのが間違いだった、偉そうな言葉ほどもなくあっけなく倒されてしまった
思えば、実験に関してもそうだ、モンスターを掴まえるという重要な仕事を失敗ばかりして、お陰でなかなか実験をする事が出来なかった
大切な技術を奪われるわけにはいかない
なんとしてでも侵入者は追い返さなければならない
施設の構造は、知り尽くしている
何処に何があるのか
どれが何をするのかも
正当な持ち主である私には良く分かっている
この不法侵入者達を追い出すには、あのシステムを起動するのが一番だ
早く行かねばならない
私の研究を護る為に

人気の無い施設内
潜んで居る筈の化学者を探して奧へと進んでいる
今まで来た道のりの途中、どこかに潜んでいる男を見落としている訳はない
此処より奧にいるのか、それとも向こうが既に見つけているのか…
……まぁ見つけてるって事は無さそうだな
見つけたとするならば、連絡ぐらい寄越すだろう
まぁ、どっちにしろこの建物の中は調査の必要はあるみたいだけどな
外側はともかく、建物の内側は、古い時代の遺跡とは思えない
確かに大した人数ではないとはいえ、人がいたのだから、人が生活できる程の清潔感があっても良い
だが、光沢を放つ磨き上げられた壁は、つい最近建物が建設された様にしか見えない
今まで見たどの遺跡とも違う金属の輝き
……やっかいそうだよな
何か重要なモノを隠し持っている様に見える
「ま、ただのモンスター対策って線も考えられなくもないけどな」
それならば良いという希望を口にして、足早に、けれど慎重に施設内の廊下を急いだ

ゆったりとした曲線を描く廊下が続く
不可思議な現象を味方にした男達との戦闘を終えて以降は人の姿が見えない
あれが施設内に残った最後の人間だったのか
それとも、既に捕らえられた後なのか………
詳しい状況は解らないが、まだ身を潜める場所が残っている以上先に進むのが懸命だ
それに……
埃一つ無く綺麗に掃除された床の上
底に無造作に残された泥の付いた数人の足跡
新しく見えるこの足跡は、きっと先ほどの男達が残したものだろう
目的の人物があの男達と行動を共にしていたとは思えないが、行動範囲くらいは推測出来る
長い廊下の先に現れる、幾つかの扉
簡単に覗いた扉の内側には、人の気配は感じられなかった
残されている足跡はまだ途切れてはいない
足早に歩く足下が乾いた音を立てる
スコールは、施設の奧へと足を伸ばした

折れ曲がった通路の先、幾つかの通路に別れた分岐点の向こうから足音が聞こえる
そして別の方向から感じる、良く知った気配
程なく通路の先で合流し、彼等は寒々とした通路を奧へと急いだ
 

 
 
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