英雄と魔法生物
(元凶)


 
モンスターは何故魔法を使う事ができるのだろう
誰に教わる訳でも無く
何の道具を使うわけでも無く
生まれながらに秘めた魔力を使い、自在に魔法を使う
人が同じ様に魔法を使えるならば………
ふとした思いつき
それが全ての始まり
モンスターを捕獲し
モンスターを研究し
モンスターを実験体にした

人々の非難の声が聞こえる
彼等の怨嗟の声が聞こえる
目の前に示された数々の結果
反論も、言い訳も出来る訳が無い
小さな疑問
行われた実験
示された可能性
可能性は可能性でしかなく、はじき出された確率は決して高いものでは無かった
反対に耳を貸さず強行したのは自分
偶然上手く行った事に有頂天になったのも自分
そして、その結果………

人では無くなった肌が見える
切り落とされ、終える筈の命は今なお続いている
視線を転じれば、人では無くなった己の姿が見える
普通の手段では死ぬこともままならない身体
モンスターから取り出した魔法の力
それがあれば、人は同じように魔法を使える
そう思いこんで、本来相容れぬ力を無理矢理注ぎ込んだ身体
手に入ったのは望んだ以上の力
初めの実験体として選んだのは自分自身
………それがなんの言い訳になるのだろう
たまたま耐性があり、適合しただけ
たったそれだけの事についに思い至ることはなかった

人々の断罪の声が聞こえる
それと共に哀れむ声が聞こえる
犠牲になった者達への様々な感情
繰り返された実験の末、悲劇は起きた
魔法の力と適合できなかった者
初めは順調だったが、時間と共に影響が現れ始めた者
―――私の様に
呪われた生き物と姿を買えていった者達
どれほど、望みの声があったとしてもやってはいけなかった行為
自然の理に反した行い
人々の新しい道を示すはずの“魔法の力を持つ者”は次々と化け物へと姿を変えた

様々な声が聞こえてくる
“魔物”へと姿を変えた者に対する哀れみの声
未だ人としての意識を持つ彼等を殺す事は出来ない
複雑に入り交じった感情
そして、判決が下される

あれから長い時間が過ぎた
蒼い世界、無機質な空間
どれほどの時間が過ぎても処分を言い渡す人間は現れる事はない
長い時の眠り、ほんの一時目覚め、何者かの訪れを待つ
“時”の概念の無くなった身体には時間による変化は訪れない
けれど、永遠と呼んでも良い程の時間が経過した
変化を求めてモンスターを放つ
長い時の中で幾度か繰り返した行動
そして………

役目は終わった
何も知らぬ内に全ての決着は付いていた
悲劇に巻き込んだ人々の大部分は既にこの世になく
裁きは申し渡された
彼は一度も足を踏み入れたことのない部屋へと足を踏み入れる
蒼い世界
硝子張りの部屋の外に深い海が見える
中央に設置された赤いボタン
さあ、滅びの時を迎えよう
長い時の末、安らぎの時間を―――
彼の手がボタンを押した

 
 
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