英雄と墓標
(長い時)


 
もうすぐ、時が迫っている
遙か昔に記されたその時が迫っている
決断しなければならない
私は、誇り高き騎士の末裔として取るべき行動を決めなければならない

「村を出るわ」
考えた末に決めた私の行動
上手く行くかは解らない
上手く行く可能性は少ないかも知れない
でも、もう決めたわ
父が驚いた顔をして立ちつくしている
ああ、やはり
父の口から出たのは反対の言葉
解っていた
きっと反対されることは解っていた
私はこの家のただ一人の娘
この家を継ぐただ一人の人間
でも、だからこそ―――
反対の言葉を並べ、私達の歴史を語る父を宥め、私は語り始める
私の味方になる人はこの村にはいない
けれど………
ゆっくりと、私は何をしたいのか
私がこれから取る行動を父に語る
―――父さんなら理解してくれるはず
私が語る言葉に、驚き、そして考える
やがて返ってくる反応
説得は長く続いた
そんなに急いで結論を出すなという父に、毎日毎晩言葉を重ねた
ようやく出された許可
父さんなら私がこの村を出ることを理解してくれると思った
そうして、私達はこれから先の私の生き方を綿密に計画する
私が行うべき事
私が行くべき場所
「セントラには行かなくちゃ、それとエスタにも行ってみたいわ」
世界中を旅して
様々な事を知って
そうして私はセントラに行く、行かなければならない
それから私は―――

時が来て、私は村を出た
村人達の反対の声は
「必ず戻る」
という私の誓いに声を潜めた
そう私は必ずここに戻ってくる
終わりを見届けるために
新しい時を刻むために
風に乗って聞こえた鐘の音
私の手に渡された、時を告げる小さな機械
村の外の世界は大きくて
村と同じように悲しみが沈んでいた
そうして辿り着いたセントラには、何も残っては居なかった

古い施設の中
未だに死の気配が濃厚なこの場所
私は閉ざされた扉の前に立つ
遠い昔、私の祖先が強い衝撃と後悔を受けた場所
私は手にした扉の前に立ち、手にした機械を見つめている
………長い時間
耳を打つ微かな音
私は知らず手の中の機械を握りしめる
ああ、長い物語が終わる
私達は誓いを果たす
遙か遠い昔、祖先達が立てた誓いを―――
私は何を初めに話そう
―――私の息子に
 

 
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