英雄とパンドラ
(ルナティックパンドラ SideS)


 
エスタのはずれ
あの時墜ちた現場から全く動く事無く、ソレはそのままそこにあった
エスタ中にモンスターが蔓延った原因
“月”がモンスターの世界である事を見せ付けた代物
―――ルナティックパンドラ
嫌悪と恐怖の対象でしかないはずのこれがまだそのまま残されている
………いや、だいぶ破壊されてはいるか
それでもとっくに廃棄されていると思っていた代物だ
ホーキスが、ゼルを相手に興奮したように何事かを話している
時折聞こえるのはセントラの技術とか、歴史の一端などという言葉
セントラの遺産?
聞こえてきた言葉にほんの一瞬気を取られる
スコールが握る車のハンドルが大きくぶれる
「うわっ」
後ろの座席から上がった声に、しっかりとハンドルを握り直す
「何かあるのか」
ゼルの問いかけに、否定の言葉を言いかけ、言葉を飲み込む
「………モンスターだ」
進行方向に幾つかのモンスターの姿が見える
どうやら向こうもこっちに気が付いたらしい
低いうなり声が上がる
「どうします?」
ゼルが問いかける声が聞こえる
聞かなくても、返事は予想がつく
申告時に付いてくる筈のエスタの護衛ではなく、わざわざSeeDへ護衛を依頼をしたのはこの為だ
「行ってくれ」
緊張しているのか、硬い声がそう告げる
スコールはゼルと視線を交わす
微かにゼルが頷く
「怪我をしない様に隠れていてください」
ゼルの言葉に、依頼者は素直に座席の間に身を隠す
SeeDの仕事ぶりを見たいなどと、ろくでもない事を言う相手じゃなかった事は救いだな
どこに潜んでいたのか、モンスターの数が増えていく
「運転代わるぜ」
言葉と同時に、ゼルがハンドルへと手をかける
「頼む」
接近戦を仕掛けるには移動する車を降りる必要がある
武器を持たないゼルには、車上からモンスターを倒す事は不可能だ
スコールは念の為に持ってきた銃を構える
ゼルほどじゃないが、ガンブレードもこういった戦いには向かない
軽く引き金を引く
銃声と共に感じる強い衝撃
銃弾はモンスターへと当たったが、倒れたかどうかは解らない
「ルナティックパンドラには、兵士が居るんだよな!」
ゼルの足がアクセルを踏み込む
正確にはルナティックパンドラの近くに、だ
いくらエスタでも、あの中に兵士を常駐させる様な真似はしていない
モンスターの薄い所を狙ってゼルが強行突破を仕掛ける
連続した銃声が響く
モンスターの向こう側に、一台の車影が見えた
 
 
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