英雄とパンドラ
(警戒)


 
ルナティックパンドラの周囲を囲んだ鉄条網
いや、鉄条網に見える、細かく編み上げられた何らかの機械
随分間を開けて建てられた、ルナティックパンドラを見張るエスタ軍の施設がある
厳重な警戒体勢が敷かれている事が伺える
目に見えるルナティックパンドラの姿は、ぼろぼろに壊れている
こんな風に厳重な警戒を敷く事が滑稽にも思える
それでもこんな風に警戒しなければならないのは
機械が生きているからか?
それとも、それぐらい恐怖が大きいのか?
ルナティックパンドラを厳重に囲む機械の網は、見ただけではどっちに向けた警戒なのか解らない
ゼルと共に車を降りた依頼者が、唖然とした表情でルナティックパンドラを見つめている
調査の対象として訪れたのだから、ぼろぼろの状態に驚いているんだろう
「状況を聞いて来る」
スコールの言葉に、ゼルが了解の返事をする
“ルナティックパンドラ監視所”と書かれた建物の前に、幾つもの車両が集まっている
そちらに向かうスコールに気が付いたのか、兵士達の間からラグナが顔を覗かせる
ラグナが歩くのに従って、人の壁が割れる
「さっきは助かったぜ」
ラグナが言っているのは、モンスターに向けた放った魔法の事だろう
「………こっちも助けられた」
本当は、こっちの方が助けられた
巣食っていたモンスターは数は多かったが、それほど強いモノは居なかった
通常の戦闘ならば、すぐに逃げ出すモノや手間も掛からず倒せるモノがほとんどだった
………だが
「あのモンスターは何だ?」
予想していたものよりも、幾分強く
予想を超えて抵抗を続けた
さすがにエスタ軍の援護を受けて逃げ出そうとしていたが、モンスターの行動としてはおかしなところが多い
「って聞かれてもな、今からソレを解明しようってところなんだよな」
ラグナが肩を竦めて手招きする
「………………」
ゼルと依頼人を待たせているが、話を聞かない事には手の打ちようが無い
スコールはゼルへと合図を送り、ラグナの後へと続く
向かう先は“監視所”の中
それに、あそこの中に入るには、エスタ兵の同行が必ず必要だ
実際の所、見学が許可される状況だとは思えない
だが、手続きは必要だ
「モンスターの異常発生の知らせを受けたのが今朝の事だ」
エスタ兵の間を抜けた所でラグナが口を開く
「原因は不明、今のところアレと関連があるのかどうかも不明だ」
アレ、ルナティックパンドラへと視線が投げかけられる
「モンスターの種類はどうなんだ?」
異常な数のモンスター、あれは全部この辺りに生息するモンスターだったろうか
「その辺りの事も含めて、モンスターがどこから集まってきたのか解明が必要だ」
この辺りのモンスターではない
ラグナの答えはそう言っているのも同じ事だ
“監視所”の扉が開く
「あそこの状態を調べに行くが………」
少なくとも一般人は
「………立ち入り禁止だな?」
スコールの言葉に、ラグナが静かに頷いた
 
 
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