英雄とパンドラ
(調査)


 
ラグナ自身がルナティックパンドラの中へと足を運ぶのは、“あの時”以来だ
攻撃と墜落の衝撃でぼろぼろになったこの場所の調査をしたのは、ウォードが率いた兵士とエスタの科学者
使い物にならない程の破損
動いている機械
内部に生命体が居る様子も無いという報告を受けて、とりあえずの見張りをつけて放っておいた
手が空いたらすぐに廃棄するはずだったんだけどな
二度と使う事が出来ないように徹底的に破壊して、今度は宇宙の向こうにでも廃棄するつもりだった
だが“魔女”の置き土産や後始末が一段落して、始末する段階になって横やりが入った
コレを残すことを声高に主張したのがガルバディアだったなら、適当な理由と共に、処分が出来たかもしれない
主張したのは、ドールと各地の学者達
“セントラの遺産”を残すべきだ
そう口を揃えて言っていたが
「相変わらず嫌な所だな」
強引に“月の涙”を発生させる装置
モンスターを呼び寄せる装置
こんな物を残した所で、何一つ益になるような事はない
こんな物を解析し理解した所で、ろくな事にはならない
半ばひしゃげた扉と、裂けた隙間からコードをはみ出させた壁が見える
滅多に人が訪れる事の無い内部の空気は淀んで、嫌な臭いを発している
一つ一つの部屋を確かめていく事は、必要だろうが効率が悪い
“モンスターの異常発生”という事態との関連を確認するなら、“月の涙”を発生させる装置の所に行くのが正解だろう
ラグナの足は幾つかも扉を素通りし、奥深くへと向かう
幾つかの足音が無言のままラグナの後を追う
あの時“魔女”が居た部屋を通り過ぎる
部屋中に残った戦いの跡
踏み出した足の下で何かが砕ける音が聞こえる
背後から着いてきた兵士達が微かにざわめく
扉が3つ
ここから先は、ラグナは行ったことの無い場所だ
「………どっちだ?」
ウォードが無言のまま、1つの扉へと踏み込んだ

明かり一つ見えない暗い部屋
静まり返った室内
暗闇の中、無言のままで、ラグナ達は部屋中を見渡す
何かが動作していれば、音が聞こえる
微かなりとも明かりが灯る
極力物音を立てずに探した限りでは、そんな音は聞こえない、不自然な明かりも見つからない
「んじゃ、次行くか」
ラグナの声で、明かりが灯る
ルナティックパンドラを動かしていただろう場所は4つの部屋に別れている
残る部屋は後1つ
なんとなく嫌な感じがするんだよな
ウォードの手が、しっかりと閉じられた扉へとかかる
一瞬、ウォードの手が不自然に止まる
微かに投げかけられる視線に、ラグナは、そっと身構える
―――いいぜ
準備が整った事を告げる視線に、ウォードがゆっくりと扉を開ける
とたん、温度の違う空気が吹き出してくる
反射的に身体が動く
「伏せろっ」
言葉と同時に、指が引き金を引く
ラグナの声に反応してから避けたのなら間に合わないタイミングだ
だが、心配する必要は無い事は知っている
飛び出した銃弾は、部屋の中へと叩き込まれる
きっかり1分後、指が引き金からはずれる
マシンガンの銃口が僅かにずれた瞬間、ウォードが中へと飛び込んで行く
強い明かりが中を照らす
暗闇の中にボロボロになった室内の様子が浮かび上がった
 

 
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