(確認)
『念のため』 そう言ってルナティックパンドラの中へと消えていった 「どういった仕組みになっているんだ?」 ここに常駐しているというエスタ兵に見せられた資料を手に、ホーキスが独り言を呟いている 空を飛ぶという構造 攻撃をはねつけるという防御システム 何よりも、“月の涙”を発生させるという仕掛け どれもこれも、あそこに横たわったルナティックパンドラの姿からは予測も付かない事だと言う 依頼人は科学者でも技術者でも無い そう言っていたが、“古代セントラ”の研究をしているというホーキスは、どうやら名ばかりの学者では無いらしく、科学技術の事についても多少の知識は持っている様だ 『セントラの研究をしているヤツなら、嫌でも科学に対する知識は身に着いてる筈だ』 そう言ったのは……… どこか興奮した様子で、資料に見入る依頼人の姿が目に映る。 時折口にする言葉に、いちいちゼルが返事をしている 聞こえちゃいない 依頼人のそれは只の独り言 わざわざ相手をする必要は無い スコールは、窓の外のルナティックパンドラへと視線を向ける 中腹に開いた大穴は、ラグナロクがつっこんだ時の物 穴の周囲にはひしゃげた金属が変わった色を覗かせている 変わった色 見たことも無い色彩 長い年月の生で変色したのだとしても、スコールの知識には無い金属の色だ 「外壁は………セントラ鉱石が使われているのか」 名前からしてたぶんセントラ特有の金属なんだろう よく、穴が開いたな あの時、ラグナの一言につられるようにそのまま突っ込んだが、今になって考えれば、古代セントラの技術で作られた装置を相手に良く無事で済んだ、と感心する スコールの後ろで、ゼルがホーキスに質問する声が聞こえる 「発見されたセントラの遺跡の中でも、実際にこの鉱石が遺跡に使われている割合はそれほど多くは無いんだ………」 質問された事がよほど嬉しかったんだろう、ゼルを相手に講釈が始まる スコールは聞くともなしに、彼の言葉を聞いている 1時間程前に中に入っていったラグナ達が戻る様子はない 窓の外のルナティックパンドラにも、ここへと続く平原の間にもおかしな様子は無い モンスターの大量発生 起きるはずのない現象と、いつもとは違うモンスターの行動は1つの記憶を呼び起こす セントラ大陸に隠されていた一つの遺跡 作られ続けたモンスターの姿 ………ここにはそんなものは無いはずだ この地にあんなものが潜んでいるならば、エスタという国は随分昔に滅んでいるはず 「………………この原料になるはずの鉱石はまだ発見されていないんだ」 依頼人の声が不意に飛び込んでくる 「それと不思議な事に、この鉱石を使った建造物はとても数が少ないんだ」 ゼルに向けての講義が続いている 「そうそうあの有名な“セントラの遺跡”には、このセントラ鉱石は全く使われていないんだ」 遠く、銃声が聞こえた 連続する軽い音 独特の―――耳に馴染んだ音は、マシンガンのものだ スコールは反射的に窓を開ける 音の方向は間違いなくルナティックパンドラ 足音を立ててゼルが側に近寄ってくる 「………兵士達に連絡を頼む」 今は任務の最中だ、依頼人の安全の確保と的確な状況の判断が最優先 「ああ、解った」 「何か起きたんですか?」 訳がわからないといった顔をした依頼人が問いかける スコール達の耳にハッキリと聞こえる銃声は、彼の耳には聞こえないんだろう 「今確認します」 「………そうですか」 納得いかないといった表情で、彼が頷いた |