英雄とパンドラ
(月の石)


 
月の石
セントラの鉱石と呼ばれているモノの名前
月の石
エスタ以外の場所では通じる事の無い名前
月の石
それはこの地上には存在しない物質
月の石
月に存在しているんだろう物質から造り出された物

「この地上には存在しない物質、“月”から運ばれた物質の事をエスタではそう呼んでいる」
ラグナの後ろでドアが閉まる
「戻ったでおじゃるか、中の様子はどうなっているでおじゃる?」
辺りの状況なんか全く気にした様子もなくオダインが近づいてくる
いつもの事だと言えばいつもの事だが
部屋の奥で、キロスが両手を広げ肩を竦めて見せる
お手上げってか?
確かに暴走したオダインを止められる奴なんて居ないけどよ
「どうもこうもな、モンスターがうろついてるってだけで他は大してかわらねーよ」
オダインの相手をしながら、ラグナは“客人”の様子をうかがう
さぁ、どうでる?
今ならオダインが居る
適当に話せる事は湯水の如く話をするぜ?
部屋の奥からキロスがゆっくりとこちらへと足を運んで来る
「それでは私は準備をしてこよう」
後は任せた、なのか
後は適当にしておけ、なのか解らないが、すれ違う際にキロスがラグナの肩を叩いていく
やけに音を響かせて扉が閉じる
「………月から運ばれた物質?」
そう問いかけたのは意外にもゼルだった
「なんでおじゃるか、月の物質でおじゃるか?“月の石”のことでおじゃるな?」
オダインらしい、思った通りの反応
「ああ、月の石とはいったいどういう事です?それに………」
歴史学者らしい客人の言葉はオダインの言葉にかき消される
流れる様に言いたい事を話していくオダインの言葉に口を挟める奴なんて滅多にいやしない
まして、それが自分にとって興味深い事ならなおさらだ
まくし立てるオダインの声だけが聞こえる
時折脱線し、専門用語が混じる
大切な事は話さない話
重要な事は巧みに零した話
適当に満足させて、人を煙に巻くっていうのはオダインの得意技だ
煙に巻かれてることに気づく奴は少ないけどな
聞かせて拙い話になったらとりあえず止めるか、程度の認識でラグナはオダインの話につきあう
目を白黒させるゼルと、不機嫌なスコール、それと必死で理解しようとする学者
三様のその姿を、ラグナは冷静に見つめる
オダインの言う事を完全に理解する為には、忍耐と知識が必要だ
オダインの言葉に反論や詳しい説明を求めるには、勘とより深い知識が必要だ
やっぱり、変人なのは間違いじゃないが、研究者―――学者として実力がある事には間違いは無いんだよな
外が静かに動きはじめる
キロスの指示で、物音と声を立てずに、兵士達が準備を始めている
オダインと共に運ばれてきた機械
あのおかしな物体を破壊する為の機材
滅多に使われる事のない機械は、いろいろと扱いが面倒らしいが、今回ばかりは心配する必要は無い
学者さんは気づいて無いみたいだな
いつもの様に怒濤のごとくまくし立てるオダインの話に呑まれて、辺りの様子に気を配っている暇なんかなさそうだ
ゼルとスコールは気が付いているだろう
だが、お前達は気が付かないフリをしてくれるよな?
オダインの、長い話が続いている
専門的な話を交え、いつも以上に長くなっていく話が続いている
さりげなく視線を向けた窓の外では、機材が備えられ、一部がルナティックパンドラの中へと運び込まれていく
分析は終わったんだろうな?
たった一つ生き残っていた機械
あれが心臓部なんだろう
セントラ時代の技術と異質な物質で造り上げられた装置
単純に破壊するなんて言っても、どうやったら破壊出来るのか、単純に破壊して問題ない代物なのか
解析が終わる迄は手が出せない
………だから前は海に沈めたんだけどな
狂った魔女に支配され、狂っていたエスタという国
最も嫌悪し、手を出すはずの無い物体“月”に関わる物
窓の外でキロスが合図をくれる
準備は完了したってことか
それじゃあ、そろそろ止めるか
「待ってください、それでは、ルナティックパンドラは、セントラが作ったモノでは無いことになる」
ラグナが口をはさもうとした寸前、学者が悲鳴の様な声を上げた
 

 
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