英雄とパンドラ
(破壊)
「解析は完了しました」
私は情報を引き出すために触れていた手を離す
私の声に反応して、ウォードがゆっくりと振り返る
『それで、どうだった?』
問いかけの表情に私は知り得る事の出来た情報を整理して話す
彼等の関心は、この物質の破壊が可能であるかどうか
この物質を破壊した際に周囲にどのような影響が出るのか
「この物質を破壊する事は簡単です」
鉛の弾は受け付けなかった様ですが、私の観点からすればそれほど特殊な物質を扱っている訳ではない
破壊する為の道具さえ用意すれば、なんの問題もなく完全に消滅させる事が可能
「破壊による影響ですが………」
辺りへ及ぼす影響、これの判断が少し難しい
破壊した途端爆発する、などという代物では無い
けれど、破壊されると同時に何かが動き出すように仕掛けられている
具体的には解らない
その動き出す物がどこにあるのか、無事に残っているのかも解らない
『その辺りはラグナ君の判断だな』
「そうですね」
判断をくだすのは私の仕事ではない
今までと同じように、これからも同じように
外に居る兵士達へと連絡を取るのでしょう
ウォードが手にしていた機械を作動させる
部屋の隅に倒れたままの奇妙な生物へと私は視線を移す
そういえばまだこれを調べてはいない
私は冷えたそれへと手を伸ばす
触れた感触は、鳥の羽毛の様な手触り
この生き物は………
昔も今も変わらずモンスターは私の専門
この付近に生息するモンスターではない
月から墜ちてきた訳でもない
遠くから聞こえてくる足音に私はモンスターの側を離れる
程なくして装置を背負った兵士達が顔を覗かせた
「ラグナ君、ちょっといいかな?」
オダインと学者さんのやりとりが続くなか、背後の扉が小さく開く
「………ああ」
夢中で話をしている二人はこっちの様子には気が付いちゃいない
っていうか、人が居ることさえも忘れているのかもしれない
一応様子を窺うと、スコールがさっさと行けという様に手を振った
細く開いた扉の間をすり抜ける
微かな音を立てて扉が閉じると同時に、オダインのやかましい声が聞こえなくなった
「どうだった?」
「破壊自体は可能だが、少々頭を悩ます結果が出た様だ」
ま、スコールもいるし大丈夫だろ
扉の中が気になるが、ラグナは歩き出したキロスの後に従う
「彼女の話によれば、だ………」
簡潔な言葉にラグナは頷く
まぁ、今重要なのはそれ位だろうな
後で必要なデータは既に記憶済みだってところか
存在する事を許すことの出来ない“月の遺物”の排除
“エスタの人間”として優先されるのはそれだけだ
それに対する分析やそれの利用方法なんてものは一切必要ない
そういう意味では、エスタはセントラの後継者であって、後継者では無くなっているんだろう
ああ、それとも、分析は厭きるほどやり尽くしたからもういらないって事かもしんねーな
くだらない事を考えながら、ラグナはキロスの後をついて行く
「それで、結論としてはどうする?」
破壊は可能
ただし、破壊したらどうなるかは不明
「うーん、とりあえず話聞いてみっかなぁ」
又聞きの又聞きじゃあどうも実感がわかねぇや
笑って言うラグナの言葉にキロスの目が一瞬鋭くなる
「ま、ラグナ君の頭では仕方がない」
一瞬の後には、いつもの顔
嘘と秘密に見て見ぬふりをしている
“彼女”の事も同じだ
やたらセントラの事に詳しく、人とは違った行動
どこまで気が付いているのかは解らない
だけど、まぁ変わらないだろう
それだけはお互いに解っている
「ひでぇなぁ」
いつもの様に笑いあって、そして行動に移す為に足を踏み出す
「………くれぐれも気をつける様に」
ついてくるつもりのないらしいキロスへと軽く手を挙げる
うん、充分気をつけるし、そのうち話す事もあるかもしんねぇな
ここ最近“セントラ”に関する様々な現象が続いている
“エスタ”の様々な技術は確立している
G.F.達も正常な状態に戻っている
そして………SeeDが居る
そろそろ決着をつけろって事なのかもしんねーな
ルナティックパンドラの方から、2つの人影が近づいてくる
「ウォードまで来ちまって大丈夫なのか?」
ラグナの言葉に、ウォードが手を挙げてラグナの脇を通り過ぎていく
「なんだよ、俺には用はないってか?」
軽い言葉を返しながら、ラグナの視線はフィーニャへと向けられる
「それで、どんな感じなんだ?」
ラグナの問いかけに“彼女”の表情が変わった
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