英雄とパンドラ
(密談)


 
「お疲れ様でした」
「これでよかったでおじゃるか?」
私の言葉にオダインが振り返る
「多少イレギュラーな部分はありましたが概ね………」
「確かに、あれはおどろいたでおじゃる」
人目の無い場所で2人言葉を交わす
「ですが、結果的には良い方に転んだと思います」
私の言葉に、オダインが何度も頷いて見せる
「あの若者は有望でおじゃる」
「ではあなたの元に?」
私の問いかけに一度頷きかけて、首を傾ける
「そうなると良いでおじゃるが、何も聞いていないでおじゃる」
本人の希望もあることでしょうから、確かにどうなるかはわかりませんね
それに、オダインは“魔法研究者”として有名
「“歴史学者”である彼は思いもつかないのかもしれませんね」
「そうでおじゃるな、オダインは確かに魔法研究の権威でおじゃる、ただそれだけではないでおじゃるが………」
エスタの人々でも知らない人の方が多いかもしれない
“魔女”の研究で名前を馳せた弊害
研究に夢中になる側面のみが強く印象に残っている弊害
………最も、後の方は自業自得と言った方が良い様ですけれど
「オダインは、セントラの専門家でおじゃる………」
肩を落とし、言葉を漏らす
オダインの研究内容が何であるのか、研究者達の間でも知られていないかもしれない
“セントラ”の研究、それは多かれ少なかれエスタに属する研究者や科学者と言われる人達は全てが携わっている事柄
エスタが存在する意味は、それなのだから
「あなたが優秀な研究者である事は私も認めています」
肩をおとすオダインへ私は事実を伝える
「ホントでおじゃるな?」
わかり易い反応
「ですが、やはり日頃の貴方の態度は褒められたものではありません」
「それは、解っているでおじゃるが、知りたいことを見つけると止まらないでおじゃる」
思いの向くまま、知識を求めるままの行動
その行動は確実な実績を上げていることは確か
私が知らなかった事さえも、オダインは暴き出している
「改めようと思う努力が必要ですね、ですが………」
私が知る限り、オダインは無理な研究を進めてはいない
“私”がそう感じるのだから、それはきっと真実
「………そんな話はいいのでおじゃる、今はルナティックパンドラの話でおじゃる」
「そうでしたね」
私は分析後のデータを取り出す
「何から始めましょうか?」
「まずは、あの物体の分析からでおじゃる」
オダインの言葉に私はデータを提示する
過去に記憶した幾つものデータと共に………
“私”が何者であるのか、オダインは気が付いている
けれど、彼もまた他の人達と同じように何も言わない、何も聞かない
時折こんな風に、私を便利に使おうとはするけれど
「“月の石”で間違いないでおじゃるな」
オダインの言葉に私は賛同する
「私が知る時代よりは新しいものの様ですが、古い時代のものと言って差し障りは無いようです」
幾つかのデータを差し出し、結果を伝える
遠い昔と変わらない行為
私が集めたデータ、整理した情報に判断を下すのは人間の仕事
ルナティックパンドラに関する解析は、幾日にも渡り続いた

「それじゃあ、依頼はここで終了って事で良いんですよね?」
ゼルがホーキスに確認を取っている
依頼が完了された事を示す書類へ何の躊躇いも無くサインが成される
依頼の内容はセントラの遺跡を調査する際の護衛
調査する筈のセントラの遺跡にはまだ一つも行ってはいない
「中途半端に依頼を終了してしまって、済みません」
「いや、俺達の方は別に………」
「………大丈夫なんですか?」
スコールの問いかけに、一瞬不思議そうな顔をして、そして納得した様に頷いて見せる
「確かに初めのうちに厳しい事も多いかもしれませんが、大丈夫ですよ」
“エスタ”は思っていたよりも閉鎖的な国だ
肝心な所には、“他国”の人間は入り込めない
実情を解ってはいないからだろうが、大丈夫と言い切れる程の根拠があるのか?
「実は私の母親は、F.H.の出身なんです」
F.H.?エスタから分かれた人達が造り上げた小さな国
別たれたのはつい最近の事、“魔女戦争”の辺りの事だ
母親がっていうことは、元を正せばエスタの出身ということだろうか
「………そうか」
ゼルが感心したような口調で話しかけている
F.H.の出身なら、エスタの話やセントラに関する話を聞かされたんだろうか?
聞いて見たいが、今はゼルが邪魔だ
幾つかの言葉を交わし
さりげなく今後の所属や予定を聞き出すと、このままエスタに残りセントラの研究に励むというホーキスと別れて、エスタを後にした
 

 
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