(室内 SideL)
公的な施設では無いという言葉通り 建物自体が大きなものではないようだ 目に見える部屋は2つ その内1部屋には、残された物は何一つ無く 今居るのはもう一つの部屋 もう一つの部屋の数倍の広さを持つ部屋の中にも、ほとんど何も無い あるのは壁に備え付けられた無数の棚と、暖炉 そして、たった一枚飾られた絵 「いろいろ残ってるのかと思ったんだけどな」 伝言を残す程の場所 厳重に保管され、それでいて使われる様に用意された鍵 中には何か重大なものが残されていると思っていたんだが 予想に反して、建物の中にはほとんど物が残されてはいない 何も無いのは、長い年月の間に朽ちてしまったわけではなく ここには何も残さなかったんだろう ただ一つあの絵だけを残して 「あからさまに怪しいよな」 ラグナは壁に残された一枚の絵を見上げる 色褪せ、かろうじて輪郭を残す絵 “家族の肖像” 「家族の絵なんて、置いていくものじゃないよな」 この絵が自分の家族を描いたものならば、置いて行く事は無いだろう 例え、これが失った家族の姿だったとしても こんな風に、二度と来るつもりも無い場所へ取り残して行ったりはしない ラグナは不鮮明な絵に目を凝らす 長すぎる歳月を重ねた絵では、はっきりとした顔が分かる訳じゃない 「………こんな顔だったんだな」 無意識の呟きが零れる 遠い記憶 もうほとんど覚えてはいない遠い記憶 かつて、これと同じ様な絵を見上げていた 誰かと共に見上げた記憶 見上げていた自分を抱え上げた腕 どんな経緯だったのか、それが誰だったのか 何一つ思い出す事が出来ない 記憶を振り払う様に、息を吐き出す 「さて、どの辺に仕掛けがあるんだろうな?」 稼働した機械 目に見える部屋の部分には、今、この建物を生かしている装置は無かった ラグナの手が確認しようと、絵の側、暖炉へと触れる 一瞬感じ取った熱 ラグナの身体が一瞬震える 置いた手から何らかの情報を読み取ろうと機械が動いた 離すことなく置かれたままの手の上をゆっくりと熱が往復する 確認する様に、2度、3度 ラグナの耳に何かがはずれる音が聞こえる 「やっぱりそういうことか」 手を離し、目を伏せる 置いた手から読み取られた情報 それに反応して開いた扉 外の扉―――この施設が稼働したのも同じ条件 「呼ばれているのは間違い無いみたいだな」 伝言があるっていう伝言 名前も存在すらも忘れていた相手からの伝言 大きく暖炉の隣に開いた空間へラグナは足を踏み入れる 壁に掛けられた肖像画がこちらを見た気がした |