英雄と伝言
(遺跡 SideS)


 
南セントラの北海岸沿い
切り立った崖と岩場の隙間
人一人がどうにか通れる様な場所を抜けた先にそれは存在していた
「よくこんな所を発見できたわね」
深いため息と共にキスティスが言ったが、確かにその通りだ
隙間を抜けた奥にずっと奥へと続く洞窟が見える
「発見した、というのとは少し違いますね」
辺りを見回しながら相変わらずの調子でフィーニャが答える
「違うって言うと、何だ?」
問いかけながらゼルが十数歩先に洞窟の奥へと足を進める
「この場所に関しては、記録が残されていました」
「記録?」
先行していたゼルの足が止まり、自然と全員がその場へと足を止める
「この場所を使用していた科学者の子孫が、放棄されたこの場所の事を記憶していました」
彼女の言葉に、キスティスが眉を寄せる
「それは調査の必要は無いんじゃないかしら?」
「そうとも言えないと思うけどな」
小さなゼルの呟きに、躊躇いながらスコールも頷く
記録が“残されていた”という言葉を思えば、現在は使われていない、もしくは忘れられていた場所だという可能性が高い
調査の必要が無いとは一概には言えない
「この地に嘗て研究施設が存在していた、という情報のみが記録として残されていました。この地がどのような研究を行っていたのかはもとより、この地を実際に訪れたという人物の記録は残されてはいません」
ここにそんなものがある事自体忘れられていたってことだろう
「ずっと使われてはいなかったってこと?」
「はい、実際のところ、ここに研究施設があったことすら、知りませんでした」
立ち止まったゼルを促すように歩き出す
「ですが、先日この地で何らかの機械が動いている事が判明しました」
その言葉にスコールは思わず彼女の顔を見つめる
「機械が動いているって………」
フィーニャの説明によれば、始めはモンスターがおかしな動きをしたことが始まり
その調査の過程で、この付近から不自然な熱源と機械の振動数を検出し、この辺りに関する資料を探した際に、ここに研究施設が存在していたことを確認したってことらしい
モンスターの異常な動き
それが具体的にどんな動きだったのかも気になるが
「その動いている機械が、ここにある研究施設だとしたら大問題ね」
どういった経緯で動き出したのか
それを動かしている誰かが存在するのか
「ですから、調査が必要となります」
フィーニャの言葉に、キスティスとゼルが同意を示す
ゼルの足が、角を曲がりかけ制止する
「近づくなっ」
鋭いが低い声
潜めた声が大量のモンスターの存在を告げる
「見かけたって言うモンスターか」
「申し訳ありませんが、モンスターの殲滅をお願いします」
曲がり角から遠ざかりつつ、フィーニャが言う
「キスティス」
「解ったわ」
スコールの呼びかけにキスティスが彼女の側へと付く
ゼルの隣へと進んだスコールの目に、モンスターの塊が見える
「こんなの、異常だぜ」
通常、モンスターが同じ場所に集まっている事はあり得ない
「………そうだな」
だが、似たような光景を見ている
「あの中に踏み込むのはちょっと遠慮したいぜ」
「魔法で一気に片をつける」
モンスターの集団にわざわざ足を踏み入れる必要は無い
一カ所にまとまっているのなら、魔法を使い纏めて倒す方が効果的だ
「それが良さそうだよな」
そう広くはない範囲だ、魔法の2つも打ち込めば、そのほとんど有効範囲内に収まる
視線を交わし、タイミングを計る
発動した魔法がモンスターの中心へとたたき込まれた
 
 
 
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