(対面)
「何やってるんだ?」 「何処にいるんだ?」 二人の言葉が重なる お互いに口を閉ざし、相手を見つめる 「俺は、ガルバディアの遺跡にいるんだけどよ」 先に口を開いたのはラグナの方 「ガルバディアっていうと………」 こそこそと、ゼルがキスティスに耳打ちする 「こっちはセントラにあった研究所跡だ」 「セントラ?」 ラグナが私へと説明を求めて視線を向ける 「ずっと昔に使用されなくなった研究施設です、先日突然稼働を始めた為調査に赴いたのですが………」 私はちらりと、後方へ視線を向ける 「………ああ、そういや、そんな事を言ってたな」 この場所が動き出した事は確かに伝わっている、けれどこの場所を調査する事は伝えてはいない 「どうやら、この研究施設の対となる場所がそちらの様です」 「それじゃあ、データは向こうに送られているってことなのかしら?」 「対になるって―――」 状況を把握出来ていないのだろう、ラグナが訝しげな顔をする 「残された資料を元に考えれば、こちらの施設を使用していた方と、そちらを使用していた方は同一人物ですので、きっとこちらで収集したデータを分析する為の施設としてそちらを作ったのだと思われます」 私は彼等に悟られないよう嘘を口にする 現実にはあり得ない事 ですが、ほぼ同時期に造られた建物の建築時期が前後しようとも、正確な建造年月が解らない者には充分通用する嘘 「使用者って………そういや、そうだな」 きっとこちらの施設の事は忘れ去っていたのでしょう 「そっちにデータは送られて行っていないか?」 私の言葉を遮るようにスコールが口を挟む 「データって………」 彼の視線が辺りを彷徨い視界から消える 彼は私の嘘には無事に気が付いてくれたでしょうか? 今は確かめる術は無い ただ、この場に居る彼等に真実を悟られないように話を進める必要がある 「ここは何の研究施設だったんだ?」 目の前の画面を見つめながらスコールが私へと問いかける 「記録では、主にモンスターの研究を行っていた様ですね」 これは本当の事 この地を造り上げた方は、晩年モンスターの研究に心血を注いでいた 「モンスターって言えば、大量のモンスターがここに群がっていたわね」 確かに、この施設を取り囲むように、モンスターが幾重にも集まっていた 「関連があるのかもしれません」 「なんか送られてきてはいるみたいだぜ?」 何が書いてあるのかさっぱりだけどな そう言って肩を竦める彼に、スコールが再び問いかける 「あんたの所にはモンスターは出なかったのか?」 私へと向けられる問いかけの視線に、私はこっそりと機械へと触れる 感触が伝わってくる 私を受け入れ、導く感覚 「そーいや、洞窟の周りにモンスターがたむろしてたけどな、不思議な事に中には居なかったんだよな」 のんびりとした口調で話す彼の元へ、私はメッセージを送り込む 再び彼の視線が私へと向けられる 短い合図にメッセージが届いている事を知る 「………そちらに送られたデータの中にモンスターに関する記述はありませんか?」 「いや、だから読めねーんだけどな」 そう呟きながら彼が再び画面上から姿を消す 「あのモンスターが何か関係があるのかしら?」 タイミングの良いキスティスの問いかけ 「ええ、向こうもモンスターの姿が見受けられた様ですが、こちら程酷くは無い様です、こちらはモンスターが溢れて居ましたから」 そして、ここはモンスターの研究施設 この場所とあの場所に関連性がある 関連性の嘘、その一点を除けば私の推論はきっと正しい 「ここで押し寄せるモンスターのデータを取得し、向こう側で分析を行っていたのではないでしょうか?」 「モンスターを集める仕掛けがあるって事?」 「今は推論でしかありりませんが、モンスターを一体一体探し出し調査するよりも、おびき寄せた方が効率は格段に良いですから」 「だけど、そこまでしてモンスターの研究をするってのは………」 「考えられませんか?ですが、それは事実です」 この辺りの情報は明かしても問題はない エスタでその筋の人間に聞けばすぐに明確になる事実なのだから 「何故、そこまで言い切れるのかしら?」 「先ほども言ったように、ここの施設については覚えている者が居ましたから」 「覚えていると言ったって………」 困惑したような声に、私は首を傾げる ここの場所の事を覚えている人が居たということ、そしてここに残された手がかり そこまで解っていながら、何を考える必要があるのでしょう? 「やっぱ良くはわかんねぇが、とりあえずモンスターっぽい絵はあったぞ」 タイミングを計っていただろうラグナの声 「本当に、モンスターを調べているって言うの?」 「ですから―――」 「モンスターにセントラが滅ぼされた後の事だしな、生きるためにはモンスターの弱点を知るってのも、大事な事だったと思うぜ」 私の言葉を遮り、諭すように言葉をかける 「この施設を造られた方は、エスタでは有名な方ですから」 現在のエスタの基礎を作った一人として、エスタの人間ならば誰もが知っている人物 「そう、なの?」 「どんな人物なんだ?」 黙って話を聞いていたスコールが問いかける 「そうですね………………」 あの方がどこの誰で、どう言った関わりを持つ者なのか……… それは私の口から言うことでは在りませんし、この場では口にすべきできない事 「エスタの科学の基盤となる技術を発明した人物………だったか?」 「はい、エスタの科学は彼の技術を元にして発展しています」 「エスタの技術ってセントラが元じゃないのか?」 ゼルの言葉に、私は黙って肯定する 「―――セントラの科学では月の涙に対抗できなかったからな」 だから新しい仕組みを求めた それは本当の事ではあるが、事実ではない 「元々彼は、セントラが確立した技術とは違う技術を使い、若い頃はおかしな実験をを繰り返す科学者でした」 若い頃の彼にとって、研究や実験はただの趣味 わざわざ人がやらない事を繰り返して、それでいて、何らかの理論を組み立てる様な事もしなかった 「モンスターの研究も、その過程ってことか?」 「………いや」 ゼルの言葉に、私は首を振り、ラグナも否定の言葉を告げる 私が説明します アナタの口から語らせる様な事ではないのだから……… 「彼がモンスターを研究し始めたのは、純粋にモンスターを滅ぼす手段を見いだす為だったと、伝わっています」 問いかけの視線に、私は人の様に深く息を吸い込む 「彼がモンスターの研究にいそしむようになったのは晩年―――彼の妹一家が亡くなられてからです」 モンスターの研究、月の研究 エスタで行われている様々な研究 今に引き継がれた様々な研究は、“そこ”を基盤としたものが多い 「それって………」 画像の向こう側で、ラグナが痛みをこらえる様に目を伏せた
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