英雄と伝言
(心情)


 
データは回収された
対となる遺跡にいた彼の手により、データは回収された
送られたデータは確かに彼が居た場所へと届き
そのデータを彼は手にする事は出来たけれど、そのほとんどは失われていた
長い年月が経っていたのだから、そんな事もある
そう告げた言葉に、ゼルという少年は残念がり
実物を目にした世界中の科学者や歴史学者達はため息を吐いた
けれど………
歳月の経過でシステムや機械に不備が生じた
いかにもありそうな嘘
データはここにある
ただ、これは転送される前のデータ
あの場所へと送られたデータは、故意に破損していた
“彼”が関わった場所は複数
あの地を立ち去った“彼”はドールを訪れ、エスタに立ち寄り
セントラの地にあの施設を作った
彼の終焉の地は見つかってはいないが、それは問題ではない
“彼”が採取した様々なデータは“エスタ”へと送られた
元々エスタへと伝えるつもりならば、あの時点でこちらに持ち込んでしまえば良かった
あの地へと訪れた者へ渡したいのであれば、こんな回りくどいことをする必要は無い
“彼”が何を思ってそんな細工をしたのかは解らない
「それは考えても仕方のないこと」
呟きが風に乗って消えていく
そうして、呟いた自分に、小さな笑みを浮かべる
まるで“人間”の様ですね
人の形を真似てはいるが、私自身は人ではない
自ら考え行動するだけの思考能力を有してはいるが、私は“生命体”ではない
おかしな事に感化されている様ですね
そんな事を思うこと自体感化されている証
だから、気になるのだと思う
これから先、どうなっていくのか
遠くで交わされる論戦が聞こえてくる
この情報が、彼等にとってどんな意味を持つものなのか………

バラバラに眠っていた私達が一つの場所に集い、バラバラだった情報が集められている
あと少し足りない情報
まだ現れない、セントラ滅亡のその時
私達が知らない情報が何処かに眠っている
まだ世界に残されているはずの、セントラ時代の遺跡
未だ発見されてはいないもの
何一つ痕跡を残していないもの
発見されたが故、原型をとどめていないもの
隠匿されているもの
様々な形で存在するセントラ時代の遺産
そして―――
「いずれ、なんらかの決断が下るのでしょうけれど」
私達は命令に従うだけ
遠い昔に命じられた命令に従うだけ
空を見上げる
夜空に浮かぶ“月”が見える
あれは、不吉なもの
あれは、悪夢の象徴
遠い昔にインプットされた情報が浮かび上がる
警戒、警告
蒼い月を見つめながら、私はデータを抱えて私達の居場所へと急いだ
 
 

 
 
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