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時々刻々と変化する、「TU」 全曲レビュウ。

01 Tu FUNK/02 いとのとち/03 Funky舌鼓/04 EENEN/05 天命さん/06 恋にも愛にも染まるような赤/07 Heart Disk/08 FUNKがしたいんだ どしても /
09 人類の此処/10 魂サイダー/11 心眼 接吻/12 いま あなたと 生きてる/※赤い鼓動のHeart/※まだ 見ぬ 最愛



01 Tu FUNK
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* 剛さん史上もっともフザケたオープニング。トゥートゥー言ってりゃいいのよ的なイージー感。しかし「おめでTu」」「ありがTu」なんてフレーズが入ってることからも、このアルバムの祝祭感が伝わってきますよね。まTuりだまTuりだ!

(15/05/25)




02 いとのとち
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川ともじ
* いとのとち、って何だろう。「い」と「の」と「ち」で、「いのち」か。「いのち」の語源は「息(=生=い)」の「霊(=ち)」だといわれています。「霊」ってのはそのまんま、スピリットを表すわけで。目に見えないエネルギーのこと。生物に呼吸をさせるエネルギーが「いのち」であると。
* 思えば、shamanipponを掲げたアルバムでは、「ラカチノトヒ」とか「ロイノチノイ」とか、わざわざ倒語にした曲名がありましたが、意味を解体することで純粋な音の響きの印象が逆に強くなる気がします。そしてどれも、「ち(=霊)」という音がすごく印象に残る。shamanipponというテーマは、このアルバムでも勿論続いている。逆に深くなっているかもしれないですね。それにしても、「命」、と漢字からせめる切り口もあると思うんですが、あくまでやまとことばにこだわるところが剛さんらしさだなあ。
* 個人的には「…ラカチノトヒ」のような、クールだけど熱い“お経ビート”を感じる曲ですね。このアルバムの域までくると、音的なことはマニアックで正直全然わかりませんけどね。ディアンジェロのオマージュとか言われてもなあ。一応、「Black Messiah」試聴してみたけどもさ。そして「Ain't That Easy」のコーラスとか確かに…と思ったけどさ。

(15/05/25)




03 Funky 舌鼓
lyrics&music:堂本剛 arrangement:佐々木潤
* リップ音満載のエロいナンバー。歌詞も声もエロいけど、やっぱアレンジか。
* てかリップ音を「舌鼓」と表現する斬新さ。流石「ファンキー説法官能小説」という作風(芸風…)を確立しようという意欲作。「神秘」とか「雨脚」とか「濡れ文」とか、かなりなフランス書院ぶりで思わずニヤリ…ってかぶはってなった。「禅味」って言葉はまあ、いろんな意味での「果て」なんだろうけど、こんな使い方もあるのかと感心しました。でも、確かにこういう言い回しをされると、小部屋の情事が、イザナギ・イザナミの国産みまでも彷彿とさせたりするから不思議。個人的には「逸らして、尚も」、あたりが一番エロいと思った。Pipeなどの小道具のリアリティもたまらん。
* そもそも、「こんなに好きなのに、いつかは死んじゃう」って思って切なくなるという心性は、剛さんの根っこあたりにあるもので、これまでも繰り返し詞の中に出てきたかと思います。でも、ここまでばーんと前面に出すことはなかったかも。「ファンキー説法官能小説」という体があった故に、逆にずるっと出てきた気がする。貴重。

(15/05/25)




04 EENEN
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* 最初のコーラスとかすっごい声が低いので剛さんかどうかわかんなかった。低い響きエロいなあ〜。
* 「今日、してもええねんけど…」っていう気持ちを隠すのってもうしちめんどくさいよね!という剛さんの思いが込められているとのことですが。「ええねんええねん。つべこべいわずにしたらええねん」っていっちゃうのは、ちょっと、オヤジくさいかも…。
* 女性がなんでそういう気持ちを隠すのかっていうと、まあ相手がどれぐらい自分を求めてるのかを計ろうとするからだと思います。でも、男性だってそういう気持ちを隠すことありますよね。これは駆け引きなんてオシャレなものじゃなくて、最終的に「どっちが誘った」みたいなことになるのを避けるためのような気がする。つまり(惚れた)弱みを見せたくないということか。……でも惚れてるのに弱みを見せたくないっておかしいよな。確かにそんなこと考えるのしちめんどくさいな、とつくづく今思いました。オヤジとか言ってすみませんでしたー!

(15/05/26)




05 天命さん
lyrics&music:堂本剛 arrangement:佐々木潤
* 相当好きです。めちゃくちゃかっけえええ。サビのファルセットの気持ちよさが図抜けてるなあ。間奏のベースソロ?の音も面白い。
* 一目惚れの歌、ということで、「天命さん」とは「運命の人」って意味かと。「○○さん」という言い方はそこはかとなく関西風ですね。「天神さん」とか「おいもさん」とかさあ。
* それにしても「生死賭けたい」「生死飛ばしたい」とはなんともストレート。「Funky 舌鼓」の芸風でいけば、もっといろんな表現方法があったと思うのですが。「真っ白な愛で汚したい」とかさ(すいません)。あえてのそのまんまなんでしょうか。ストーカーチックな思いこみの激しさは確かに感じます。そもそも思い込みが激しくなければ一目惚れなんかしないわけですからね!

(15/05/26)




06 恋にも愛にも染まるような赤
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* これも一目惚れの歌、ということで、今作は随分惚れっぽいですね。「恋の歌など歌わねえ」なんていう生真面目な信念は、実はファンキーじゃない、ということに気づいてしまったのかしら。
* 「恋にも愛にも染まるような赤=(いのち)を生きたいだけ」と繰り返し歌ってることで、もしそれが得られたら他に何もいらない、っていうような思いの強さを感じますね。エゴイスティックで衝動的な“恋”と、家族になって苦楽を共にするような“愛”は、実は全然違うもの。でもそれが一つの色になったら最高じゃねーの?ってことだと思う。個人的には「故意」のモチーフと共通するものを感じるなあ。周りがどんどんどん結婚したり子供産んだりしていくなかでできた曲ということなので、これが剛さんの結婚観なのかも。でも、それが滅多に手に入るものじゃないんだよなー、というボヤキが聞こえるようでもある。モチーフだけみると情熱的なんだけど、音としてはどこかさめたものを感じるんだよね。でも最後のツーバスはぶはっとなった。
* 愛鶴(まなづる)という言葉が出てきますが、「真鶴(まなづる)」ではないんですね。剛さんの造語だろう。恋詩を綴った文で折る鶴……愛の結晶という意味で「愛鶴」なのかと。そういえば愛の結晶のことを「赤ちゃん」ともいいますね。そのへんの連想がとても面白い。もっと考えると、愛鶴を折る「文」って、DNAのことなのかしら、とかさ。

(15/05/27)




07 Heart Disc
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* この曲を聞いた時に一番印象に残ったのは剛さんの声です。ふわふわしたものでなく、何かをキッパリと歌おうとする意志がすごく声に出ていて、はっとさせられましたね。
* 各所で剛さんが言っているとおり、お爺さんになって、死を意識した時に自分はどのような気持ちになるのだろうか、という想像からスタートした詩だと思うのですが、「小さくなったキミを包むと奇跡を信じていたいね…」以降はもう、ケンちゃんのことを歌っているようにしか聞こえない。
* 自分が死を迎える時にどんな気持ちになる(なりたい)だろう?って考えていった先に、もしかしたらケンちゃんは今こういう気持ちなのかもしれない、と気付いてしまって、そこで主体と客体が一体化してしまったような印象を受けます。「自分が見送られるとしたら」「あなたを見送るとしたら」という両方の思いが合わさって、合わさった分だけ、とても複雑だけども美しい。逝く方と見送る方が一つの命をみつめるさまが、愛と感謝、そして未来と永遠を願う思いに満ちていて、ほんとにぐっときます。
* 身近な大切な命の死のことを歌う時には、実は自分の「悲しい、寂しい」という気持ちばかりが表象されてしまうことが多いと思うのですが。そういうものを超える、超えようとする強い意志がまるで青空のように広がる名曲です。

(15/05/29)




08 FUNKがしたいんだ どしても
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* ああイカしてるなあ。ノリが最高ですね。しかし最初に聞いたのがライブなので、ストリングスとかブラスのチープなシンセ音が若干気になっている。こういうのが逆にイイ、ということなのかなあ。まあパンツにくるまれてリリースされた曲ですので普通にカッコつけてもしょうがないんでしょうけども。間奏ではまたしてもベースソロで遊んでますねえ。
* 歌詞は非常にシンプルでわかりやすいメッセージ。しかし、FUNK=古(いにしえ)だ、ってのは全然一般的な解釈ではないと思うのですが、剛さんが歌うと妙に説得力があります。

(15/05/29)




09 人類の此処
lyrics&music:堂本剛 arrangement:佐々木潤
* あれあれまたリップ音が入ってます。まあリップ音というワードも声ヲタ界隈でしか流通していないワードなのかな。詩の中にもある「Lip noise」というのは音楽業界用語のようですね。チュッチュする音というよりは、クチャ、とか、ペチャ、みたいな、口を開いた時に出る音のようです。吐息も入ったりしてかなりなサービスナンバーだとは重々承知なのですが、どうせならマジもんのリップノイズ入れて欲しかった(変態)。
* このアルバムのタイトルである「TU」という音そのものにしろ、通常盤のジャケットにしろ、全体的に「唇」のモチーフがちりばめられていることに気付きます。肉感や湿り気を感じるのはそのせいかと。
* 快感の受容器官としての唇、というモチーフは、剛さんの詩の中にはこれまでもチラチラと出てきてるんですね。それをして「口唇期固着なんじゃないか」みたいなことを書いたこともあるのですが。この曲の詩もねえ、「人類(ぼく)の此処(ここ)」というタイトルのワンアイデアで最後まで押し切ってますけど、ボクのココよりも、それに対になっているおクチの方が印象に残ります。そもそも何故おクチなんだ他にいろいろあるじゃないかとかいう思いもありますが。
* アレンジ的に最もアダルトだなーって思ったのはこの曲ですね。ロイエーということではなくて、シャレオツアダルティー、って感じというか。少し違和感がありましたね。へー、剛さんもこういう曲をソロでやるようになったんだーって(むしろKinKiではこういう雰囲気はアリかなと思うので)。

(15/06/05)




10 魂サイダー
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川ともじ
* 魂サイダー=consider。未来をよく考えろ!っていう、すごい健全なメッセージがなんだかほほえましい。それまでさんざ「意味なんかないねん」「感じればええねん」みたいな感じできてたのが、ここで急に「よく考えなアカン」て…まじめかっ(笑)!打ち込みの規則的なリズムも委員長感をなんとなしに増長してるのかも。それを崩そうとファルセット多めにしたり、飲むサイダーとかけたりしてるんでしょうけどね。
* そんなこと言うとこの曲ハマってないみたいですが、全然そんなことはない。「愛 get 暴動 世界!!!」なんかを彷彿とさせるのは、剛さんには珍しく打ちこみだからでしょうか。とはいえ生音も多いので、全然EDMっぽくはないんですけど、いわゆる踊れる曲っぽい雰囲気があって個人的には大変アガります。カウントジャンプを匂わせる間奏もあったりして、今からライブで聴くのが楽しみだ。AIが喋ってる風な少し音数過剰なアレンジも楽しい。

(15/06/05)




11 心眼 接吻
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川ともじ
* この曲のリップ音が一番ひつこいですねえ。そして密度としては一番言葉数が多い。「魂サイダー」も随分多いなと思いましたけど、この曲の方がさらにですね。唇に象徴される官能要素と、ストレートな説法要素が共存してるような雰囲気もある。
* でも詩の内容がまだつかみきれないなあ。♪何処かでオリジナル欲しているけど出る杭は…、のところがよくわかんない。半端に真似るくらいだったら、完コピするか全く真似ないかどっちかの方がいい、って意味かな、とは思うんですが。ここで「完コピする(全くオリジナリティを出さない)」っていう方にも一応の価値を見出す剛さんってのがとっても意外で、果たしてそういう意味なのかまだつかみきれてないです。
* ♪12時12月を…以降の最後のリフがすっごい印象的。こういう意外な展開がバンドっぽいなと思う。

(15/06/05)




12 いま あなたと 生きてる
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* ようやくこの曲。元はといえばこの曲を聞いた時の感動を残したくてレビューを書き始めたのでした。繰り返し、♪あなたにだけ歌える世界を教えてよ…と優しく歌いかけてくるボーカル。ああ、あなたにだけ歌える世界ってのは、多分どうにもならない寂しさであり、涙滲むような悲しみであるのだろうな、ということを感じて、その優しさにしみじみとしていると、突然あのフレーズが飛び込んでくるわけです。

♪あなたになら歌える 素晴らしい孤独を……

* ああ、私の寂しさ、私の悲しみの正体は孤独であった。そしてその孤独を、この人は「素晴らしい」と言ってくれる。私はここで毎回、毎回ほんとに涙が滲みます。その前の転調もとても効いてる。
* 「いま あなたと 生きてる」のは一体誰なんでしょうか。いま、「孤独なあなた」と生きてるのは、「孤独な誰もが」なんですよね。そして「誰もが」には勿論剛さんも含まれているという確信がある。剛さんは、「強がりかもしれないけれど、自分の孤独を素晴らしいものだと思いたい」とインタビューで語っていました。決して上からでも下からでもなく、「孤独なあなたはわたしである」という目線なんですよね。それがこの曲がここまでぐっとくる最大の理由だと思う。皆が孤独であるという一点において私達は孤独じゃない。そんな鮮やかなパラドクスによって、孤独を乗り越えていく力をもらえるような、そんな気さえする。
* 蛇足ですが、昨年のライブで、普遍的な孤独感について剛さんはどんな曲を作るのかな、なんてことをボンヤリ考えていたので(ココに書いてた)、奇しくもそのアンサーを得たような気がしてほんと勝手に嬉しかったです。

(15/06/05)




※ 赤い鼓動のHeart
lyrics&music:堂本剛 arrangement:SWING-O
* 「街」のアンサーソングという位置付けらしく、イントロの雰囲気なんかも見事に「街」っぽい。あの時に見えた街の光景を今の自分が見たらどう感じるだろう…という感じなのかな。とにかく、以前は「僕vs世界(=街、時代)」という対立しかなかったのが、世界を諦めないために闘う、っていうところまで変化したことをアリアリと感じますね。自分しか見えていなかったあの頃とは大分パースペクティヴが変わったなと。でも同時に、いやんなるくらいまっすぐなところは全然変わってないなと。
* 2014年の平安神宮で歌ったときは、♪声が枯れても 歌は歌える…、と歌っていて感動した人が多数だったと思うんですが、なんでここ変えたんでしょうかね。キャッチーすぎたのかしら。個人的にはここのフレーズのところでベースがメロディラインに寄り添うのが大層ぐっとくる。
* それにしてもこんなテイストの曲だったら今までは間違いなく十川さんがアレンジだったと思うんですけど、SWING-Oさんなんですね…アルバム通してもSWING-Oさんの方が多く手掛けてる。これも今回のアルバムの大きな特徴だと思います。

(15/06/05)




※ まだ 見ぬ 最愛
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川ともじ
* 冒頭にレコード針落とすような音が入ってます。なんだか70年代ポップスの雰囲気もあって、このアルバムでは最も明るい曲ですね。もしかしたらタクロー風味も少し入ってるかも。
* しかし、ベタに「君」を歌ってる曲だったら70年代的ですが、「まだ見ぬ最愛の人」を歌ってるというのがゼロ年代的。「結婚はしたいけど焦って探すのも違うと思うし…」って、なんかこじらせ女子みたいでもある。
* そして通常盤、特別盤ともに必ず最後に入ってる謎の姐さんのお説教ですよ。きっとあの芸者風のFUNK姐さんだと思うんですが。これ、「調べる力あるでしょ?今いろいろなものあるでしょ?」でぶはってくる。このフレーズは絶対どこかの年配の女性が言ってたんじゃないかって思えるようなリアリティ。あーオモロイ。あと「ワン、トゥー、トゥー、トゥー、トゥー、トゥー」もばかばかしいねえ。「ワン、トゥー、ワン、トゥースリッフォー!!!」ネタを思い出すわあ。ライブでこのカウントやられたら、笑い崩れていつまでも演奏に入れないのではないかと今から心配…楽しみです。

(15/06/05)





以  上