がんばれ元気
三島栄司の死



三島と元気の連日の激しい練習は続いていた。元気には２つの悩みがあった。三島が時々血を吐いて 病気が日増しに重くなっていくことである。三島は顔がやつれていく様子がはっきりと分かり、その 症状が軽くないことも・・。三島にとっては命の尽きる最後の夢が元気である。元気を一流のボクサ ーにするため、病院にも行かず、死と戦いながら元気を指導しているのだ。もう一つの悩みは自分を 引き取り１０年の間、育ててきた田沼家の祖父母であった。元気の母である娘が亡くなっているため 元気だけが生き甲斐であり、田沼家を継ぐ後継者である。その祖父母である二人を捨てて、中学を卒 業したら父と同じ道、プロボクサーを目指さなければならないからだ。たとえ高校に入っても、プロ テストを受けられる１７歳には高校を辞めるだろう。何より自分をボクシングの世界からの逃げ道を 作りたくなかったのだ。元気には精神的な甘さがあった。
　三島の病状が悪化したのを機に、元気は三島を病院に無理矢理入院させた。そのときは三島の回復 は絶望的だった。そんなことを知らずに回復すると信じて元気は待ち続け、連日、病院の外で三島に 見えるようにトレーニングを続け、病院の中から三島の指導を受けていたのだ。
　三島の入院を芦川先生には内緒だったが、芦川先生に元気は三島の入院を伝えた。しかし芦川先生は 決して三島の前に現れなかった。「私には内緒なんでしょ」。元気には芦川先生が三島が前から病気 だったのを知っていたことに気づいた。芦川先生は自分にではなく、元気に最後の命を燃やしている ことを知っていたのである。
　やがて三島は退院した。勿論、直るはずがない。回復したと勘違いした元気は大喜びでジムへ三島に 会いに行く。ジムで待っていた三島は自分との元気にスパーリングを命じた。
　元気はこんなにうれしそうな三島を見るのは初めてであった。退院直後の心配をはねのけた三島は ボクシングを引退して初めてトランクスをはいてリングに上がった。
　三島の高度なテクニックとスピードが元気を圧倒する。しかし、三島のパンチをスリッピングでかわ
し、三島が左を打つところに右のクロスを放った。三島がダウン。
　立ち上がった三島はスローなパンチで元気に殴りかかり、元気は呆然としてパンチを受ける。大きく
手を広げた三島は元気の上達の喜びと涙があふれていた。
「強くなったな堀口」
三島は元気を抱きしめると、そのまま崩れ落ちて救急車で運ばれた。
　もはや苦しんでいるだけで、意識は不明だった。もう命の尽きる直前であった。芦川先生も病院に
駆けつけ運命の時を待った
　元気は自分の手で三島を死に追いやったと知りながら、病室に入りパンチを打つ
「右足を伸ばし、かかとを上げ体重を前方の左足に移しながら、左拳の構えの位置から一直線に伸ばす
！」
　元気が三島から教わったものをその場で演じて見せた。死の苦しみにもだえ苦しむ三島は元気の声で
苦痛がひき穏やかになる
「相手の左ストレートに対してブロッキング！パーリング！スリッピング！」
「ボクシングは自分との戦い、いかなる屈強にも目をそらさない！目をつぶらない！」
三島は元気の声に安心し、永遠の眠りにつく。三島が死んだときに元気は鏡に映った自分の顔を打った
拳を血塗れにして鏡に向かって強烈にパンチを繰り出した。慌てて周囲が止めに入る
「やめろ！その拳には三島さんの夢が・・・」
周囲が止めにはいるが、ふりほどき元気は拳がつぶれてしまうのではないかと思えるほどうち続けた。
そんな元気の頬を殴りつけたのは芦川先生だった。
「貴方一人が悲しいんじゃ無くてよ」
芦川先生が泣きながらそう言うと元気は病院を抜け出し、息が切れるまで走り続けた。
倒れて動けなくなり血塗れの拳を見つめて
「この拳には三島さんの夢が・・・そして父ちゃんの・・・」
元気は決意を固め中学卒業と同時に、自分のすべてを捨てて東京に上京していく・・・

関拳児との約束へ続く
拳キチ伝言板
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