11/22辰吉が起こした奇跡

 11月22日、辰吉丈一郎がWBC世界バンタム級王者のシリモンコン・ナコントンパークビューに
挑み見事7RTKOに仕留め王座を約年ぶりに奪回した。薬師寺、サラゴサ(2試合)に世界挑戦3連
敗している辰吉が勝つなどと言う予想を立てた人は数少ない。辰吉の王座復帰はどれほど大きな価値な
のだろうか?
 浜田剛史や大橋秀行の王座奪取は見事であったが、決して峠を過ぎての挑戦ではなかった。予想は不
利と言うよりは勝機無しの状態で戦ってベルトを奪ったボクサーは柳済斗に挑んだ輪島公一を思い浮か
べる。そしてジョージ・フォアマンに挑んだモハメド・アリもそうだった。浜田や大橋の奪取は決して
奇跡ではなかったと思う。辰吉はこの輪島、アリに匹敵する奇跡を起こしたのではないだろうか?
 昭和51年に7回KOで破れ柳にタイトルを持ち去られた輪島は既に終わった選手という感があった
。誰も輪島がタイトルを奪回するとは思わない状態で、柳に挑んだ輪島は巧妙に試合を進め、奇跡の最
終回KOで柳からタイトルを奪回している。政治的な問題からタイトルを失って7年になりボクサーと
して終わった感が強かったアリも奇跡的なタイトル奪取に成功した1人である。当時のヘビー級王者、
フォアマンはアリの挑戦も撃退したジョー・フレージャーを2回で粉砕してタイトルを奪うとローマン
を初回、ノートンを2回で葬り無敵の状態にあった。アフリカのザィール、キンシャサでアリが挑んだ
訳であるが、このときはアリが何ラウンドに初のノックアウト負けするかという見方でしか無かった。
 これが「キンシャサの奇跡」と呼ばれる試合になるが、アリが8ラウンドにフォアマンをキャンバス
に沈めている。この試合を見た人々は今回の辰吉vsシリモンコンの試合を見て、アリや輪島の試合が
頭によぎったであろう。
 辰吉は勝てないと言う予想が強かった。彼には失礼であるが、既に峠を過ぎ終わった選手と見る人た
ちが多かった。辰吉の挑戦3連敗で、自分自身の頭の中に「終わり」はよぎっていたかも知れない。
 これを否定してリングにたった辰吉のボクシングに対する愛は想像を絶するものであったに違いない
。今回の試合でも6ラウンドにあわやKO負けというピンチを作るなど、ディフェンス面の課題は残る
が今は後の試合など考えたくはない。辰吉というボクサーが再び我々のヒーローの座に戻ってくれたこ
とを今は素直に喜びたい。

 拳キチより    (11月24日作成。)
 
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