思い出のヘッドギア
今から十数年前になるかな?私がボクシングをやって一番、ボクシングの凄さ、面白さを肌で感じられ
たのは・・・。
私がボクシングをやって本当に驚いたのは、超ド田舎の町の公民館だったな。私はそこでボクシングを
やっていると言うから興味翻意で覗きに行った。何とも粗末な設備だった。ろくにグローブも無く、ゴン
グも無い。設備の整ったジムからやってきた私にとって、それが不思議で仕方ない。しかし、公民館の
中には行ったとたん、恐ろしいまでの雰囲気を感じさせた。そして、そこで私はとんでもないボクサーを
目の当たりにする。私はたくさんのボクサーを未熟ながら見てきましたが、あの時の衝撃は無かった。
シャドーを見ただけでそのボクサーがいかに強いと言うかが分かる。その人が36歳の年齢で現役の選手
では無いと言うから恐れ入る。その人がこのクラブの代表で、指導者であったのだ。
その人物は元自衛隊体育学校で日本ランキング1位、国際試合もこなし、プロでは新人王の準決勝まで
進みながら網膜剥離の為、無敗のまま引退したボクサーだった。聞けば聞くほど凄いとおもったのは、
あの世界王者を何人も育てたエディ・タウンゼントの指導も受けた事が有ると言う。そして某日本王者を
スパーリングでダウンを奪った事が有る強打者だ。失明、引退後も一日足りともロードワークを休むこと
なく、私はボクシングの魅力に取り付かれると言うよりは、このボクサーに取り付かれた。私はそこに
通うようになり、毎朝、6時のロードワークに参加する。そのロードワークに参加するため、毎朝5時過ぎ
には起床。何ともハードなロードワークだった。アップダウンが激しく、ろくにアップもせずに速いペースで
走らせられる。私はあの言葉がいまでも耳に焼き付いている「だせ!もっと早く」。とにかく目いっぱい怒鳴
られながら走らせられる。とにかくその人は速い。そしていくら速く走っても息切れもしない。化け物かと
思った。「ぶっ倒れるまではしれ!」それが口癖だった。私が参加するようになってから練習は過激になり
最初は何人かいた選手はロードワークに姿を見せなくなった。もはや、毎日、その人と走る事になる。
私、一人しかいないので、私の友人で某有名実業団に陸上の選手として所属する友達を誘って参加させた。
「う・・嘘だべ。あのひとは化け物だ」。長らく陸上を続けてきた私の友人さえ驚くような、毎日の
ハードトレーニングだった。やがて私の友人さえ、姿を見せなくなる。・・・
夜のジムワークは私とマンツーマンだった。私は生まれてこのかた、自分だけに指導してくれる人は存在
しなかった。過去に家庭教師さえ(ちと違うが)いなかった私にとってそれが、うれしかった。まさに専属で
指導してくれた。やがて、毎日のハードな練習で私の体は、私の精神より先に悲鳴を上げた。椎間板ヘルニア
となってしまった私の下半身はしびれがひどく、歩く事もままならなくなる。しかし、それでも私は辞めず、
腹筋、背筋をこなして筋肉のコルセットを作ろうと努力した。
やがて、その人とスパーリング。私はフェザー、相手はウェルター。大きさは違ったが、スパーリングは
違和感も不信感もなく、開始された。しかし・・・。ヘッドギアがない。そのクラブは設備も無く、ヘッド
ギア何て無かったのである。顔面をボコボコに殴られ、翌朝、自分の顔を見たら顔が腫れていた。手加減
していたと思うが、それでもパンチは効いた。ゴツン!そんな鈍い音が、耳に聞こえる。目の前が真っ暗に
なった事もある。そして痛い、腫れるより、頭痛が激しかった。私はヘッドギアが欲しかった。プロの試合
でもあるまいし、これではパーになっちまう。や・・やべえ。(前からパーだったから問題無い事が後で
気付いたが・・)
私は若く、給料も安い。当時、ヘッドギアは1万5千円(だったかな?)は苦しかった。私はそれでも
欲しくて、欲しくて、何もかも我慢してヘッドギアを注文した。しかし、すれ違いで郵便屋さんが不配達。
私は何とか郵便局に引き取りに行こうとしたが、その時、吹雪いて大雪。一寸先も見えない状態で、それでも
ヘッドギアほしさに車を走らせた。しかし、車は言う事をきかない。私の命令とは逆の動きをして一回転。
そして田んぼの中に突き刺さった。ああ・・。その車を引き上げるためにレッカー代1万5千円を要求され
た。ああ・・どうしよう。お金が払えない。
私は何とかヘッドギアを郵便局に引き取りに行ったが、金はない。
私はヘッドギアを付けてもボコボコに殴られて激しい頭痛が私を襲った・・。そして数日後、私の所に
電話が入った。「あの・・代金未納ですが・・」あっ。ヘッドギア代の請求だ。
私は毎日、たこ殴りにされてボコボコ。毎日頭痛が襲ったが、この日は借金の取りたてで、ひどく頭が痛かった・・。
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