東京ドーム・マイク・タイソン

1980年代、ヘビー級にとてつもないボクサーが現われた。マイク・タイソンだ。デビュー以来、ノック
アウトの山を築き上げて、デビュー以来19連続KOのヘビー級記録。小柄ながら小刻みにからだを振って
明いてとの距離を詰めてダイナマイトパンチを見舞う。あっと言う間にWBA、WBC、IBFと3団体の
統一世界ヘビー級王者になったのだ。全世界がこの鉄人に注目したのだった。
1988年、タイソンが日本にやってくる事となった。私はすぐさまチケットを買った。タイソン見たさ
も有るが、元WBC世界Jウェルター級王者浜田剛史の再起戦も組まれているからだ。しかし、浜田の膝の
状態が悪く引退を表明して試合を中止してしまう。タイソンの前座には日本ウェルター級タイトルマッチ、
坂本孝雄(新日本木村)vs吉野弘幸(ワタナベ)が組まれ、カーロス・エリオット、マーク堀越(いずれも
八戸帝拳)らが試合を行った。番狂わせで吉野がタイトルを獲ってしまうが、この日は鉄人がリングに上がら
ないと観客は沸かなかった。この興行は東京ドームのこけら落としとして行われ、5万1千の観衆が集められ
た。東京ドームは出来たばかりで、いろいろな噂が有った。ドームだから歓声が起きると耳鳴がすると言うの
だ。だから私は耳栓を持参した。しかし、思っていたほど耳鳴といった現象は起きなかった。
「ここが農協ドームってとこか?大きいな」何て私はジョークを飛ばすと、一緒に行った仲間たちが爆笑する
そしてタイソンが現われる無敗の鉄人はさっそうとリングに上がると、あっさりと挑戦者トニー・タップスを
血祭りに上げてしまう。あらら・・終わっちまった。わざわざ宮城くんだりから東京に来た私たちの度肝を抜
くタイソンの圧倒的な強さ・・。何と2回KOだった。かくして世界ヘビー級を5分しか見れずに故郷に
帰る事になってしまう。なんてこっちゃ・・・。
1990年、再びタイソンが東京ドームにやってくる事になる。しかし、タイソンはマネージャーとトラブル
妻と離婚、旧敵と喧嘩、自殺未遂、トレーナー、ケビン・ルーニーの解雇。無敵の鉄人に異変が起こっていた。
更に来日して不調が伝えられスパーリングでダウンを喫したと言うのだ。しかし、37戦全勝33KOの鉄人
が早い回で挑戦者のジェームス・ダグラスをKOしてしまうと誰もが信じて疑わない。私はこの日のために
3万円の席を購入。ピッチャーマウンドがリングだとして私の席は野球の外野手が守っている位置ぐらいだと
思う。リングサイドは何と20万円だ。この日に行った私の友人が試合のプログラムを見て気にしている。
何だと尋ねると「もしかして・・この予備カードに出てくるの俺の弟でねえかな?」何とプログラムには友人
の弟の名前が刻まれている。予想通り、友人の弟がリングに上がってくる。その弟に後で聞けば、リングに
上がったらリングサイドでアメリカの解説をやっていたシュガー・レイ・レナード(5階級世界王者)の顔が
あって緊張して初回に倒されたと言うのだ。何と言う舞台に上がったのだ・・・。
そして前座にはプロ2戦目だった辰吉丈一郎がリングに上がる。しかも元タイ王者にダウンを奪われる。
観客は罵声を飛ばした「なんでプロ2戦目で10回戦なんだーっ」そんな罵声を一瞬にして黙らせる辰吉の
左のボディ。タイ人は深々とリングに沈んだ。何て凄いボクサーだ・・・。そしてセミには目当ての高橋
ナオトがリングに上がる世界前哨戦。日本で最も期待される世界2位の高橋はスタンディング・カウントを
何度も奪われ完敗してしまう。これには失望。しかし・・メインのタイソンが派手にノックアウトしてくれ
るさ。そしてタイソンがリングに上がるが何故か表情が悪い。ゴングが鳴ると挑戦者ダグラスに攻め込まれ
いつもの軽快な動きは見られない。そしてワンツゥーを食いまくりタイソンの目が腫れ上がる。「あ・・!!」
タイソンはペースを奪えない。しかし、こんな状態でもタイソンが負けるとは思わなかった。会場の誰もが
タイソンの逆転を信じて疑わなかった。そしてそんなシーンが突然やってくる。タイソンのアッパーがダグラス
の顎を捕らえてダグラス、ダウン!。カウントアウト寸前で立ち上がるが、私はこう叫んだのを覚えている。
「カウントが長い!ロングカウントだ!」後で問題となるが、実際に10カウントを越えていたのだ。
次のラウンドもタイソンはぐらつき、ダグラスの攻撃を受け続ける。そして10ラウンドにはショッキングな
シーンが訪れる。タイソンがマウスピースを吹っ飛ばされてリングに沈んでしまうのだ。ドーン!!タイソンが
リングに倒れ込む。そしてKOが宣せられる。会場は信じられないと行った表情だ。私は回りを見渡すと中学生
らしき人がガクリと肩を落としている。中学生で3万の席だから、よほどのタイソンファンなのだろう。
私は電車に乗り込み帰宅しようとするが、電車の中はタイソンのKO負けの話題でぎっしりだった。
「ああ・・もう日本でヘビー級は見られないのだろうな・・。ダグラスは日本ではやれないだろうな」
ファンは肩を落としていた。確かにこれ以後、東京ドームにてボクシングの興行は行われていない。並みの
選手では出来ないだろう。私は心の中で思った「心配するな。オラが農協ドームを満員にして世界タイトル
マッチやってあげるからさ」
勿論、私の東京ドームでの野望は既に失っている
(2月16日更新)


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