女子高生練習生 Ban Ban

今から3年前の春の事だった。地元のタウン誌に募集広告を載せたら数人の練習生が、入門を希望し、
その中で、女子高校生が1人、入門してきた。背はちょっと小さいけど、髪が肩より長くて一見普通の
可愛い女子高生と言った感じだが、何故か元気が無くておとなしい子だと言うのが私の最初の印象だった。
ミットを持ってやると女性のほとんどはパンチが軽くて手応えがほとんど無かったが、彼女だけは重いパンチ
を繰り返した。ほっておくとジムの片隅で練習をしてしまうのでいつも「もっと中に入って練習しろよ」って
声をかける。どうにも気持ちの中に閉じこもってしまうのでパンチングボールを打つ練習ではボールに顔を
マジックで書いてやって笑わせてリラックスさせて叩かせる。
しかし、だんだん、日が経つとジムの片隅で練習している事が多くなった。「ミットやろうよ」と言うと
首を振って断るが、練習には翌顔を見せていた。言葉もほとんど話す事無く、練習も一人でやっているし、
私はどうしたら良いのかわからない状態になった。知っている人に聞けば家庭環境で、彼女はひねくれてし
まったと言う。ミットさえ打とうとはしないので、私はほっておくことにしたが、おとなしそうな彼女は
ジムの壁を殴り付ける。壁だけではなく、鉄の柱さえ、叩くのだ。ジムに音が鳴り響く。壁を叩いていたと
おもえば、今度はジムの外に出て、うろうろしたり、走ったり、不自然な行動をとっていたのだ。
こんな練習生を抱えたらどうすればよいのでしょうか?知っている事がいたら教えてもらいところです。
毎週のようにジムに来て、そんな行動をとるから考え込む。私が思うには実は中に入りたいが素直になれない。
別に壁を叩きたいわけではないが、誰かに見て欲しい。かまってほしい。しかし、素直に中に入れない。
そんな感じだとおもう。本当はいずれは打ち解けて欲しかったが、来れば来るほど、彼女は気持ちが遠ざかって
しまっているように感じた。やがて彼女はジムに来ていつものように壁を「バン!バン!」と音を立てて
殴り付ける。おとなしくしていると思ったらいつのまにか帰ったようだ。彼女が練習していたあたりを見渡すと
壁に落書きがあった。「喧嘩、上等。よろしく」と言った文字をボールペンで書いてあったのだ。
「まいったな、こりゃ・・・。今度は落書きか・・・」
ジムは借り物であるから落書きをされると困るので注意した。そしたら「何故悪い?」だって。注意したその日、
ジムの外へいたとおもえば、中に突然入ってきてサンドバックに突進。サンドバックをメチャクチャ殴った後、
またジムの外に消えて、また入ってきてサンドバックを打って、その日からジムに姿をあらわさなかった。
今でも彼女が元気に世の中で頑張っているか、私は気になるときがある。もう高校は卒業しているはずです。
世の中にはいろんな人がいます。本気で試合を目指すもの、勘違いして練習に来るもの、ダイエットや体力増進
に来るもの。それぞれいろんな目的でやってきて、それをすべて私は受け入れてきたつもりでいます。
ボクシングが盛んでないのは、やはり気軽に練習できないからです。そんな気軽さを私はやろうとして、いろんな
人と出会いました。しかし、今回の話しのような人が現われるとどうしていのか分からないです。指導するって
難しいね。
彼女も今では素直でやっていればいいなって、思います。まさか・・・いまだに・・・。
Ban Banやっているのだろうか・・・・?。壁を殴っているのだろうか?気になっちゃいますぅぅ
(1999.5.16更新)

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