洞窟でふたりきり。

俺とゼロスは激しく降り続く雨が止むの待っていた。
他の皆と別れてから3時間くらいたっただろうか。


―――傍に居るから。―――



「獅子、千烈破っ!!」

ロイドの体から獅子を象った気が放たれた。
其は建物の影程巨大な敵をも呑み込まんとして喰らい付く。
そして其に堪えきれず尻込みした敵の体へ
追い撃ちをかけるようにして剣先の鋭利な雨が降り注ぐ。

すると、圧倒的な剣技の前に巨体は為す術もなく地面に倒れた。


重く鈍い音が広がり、やがて静寂が訪れる。
これで最後かと辺りを見渡すロイドの表情にはまだ緊張が溢れていて。

その様子をゼロスは遠くから食い入るように見つめていた。
ロイドの真剣な表情は普段の幼さを微塵も感じさせず、
青年として元来の端正さが伺えるのだ。

その美しさを目に入れずに、何を眺めろというのか。

そんなことを考えて、少しばかり気を抜いていた所為だろう。
後ろに微かな気配が感じられたことに気付くことはなかった。

「ハニーってば格好良いー!俺さま惚れちゃいそうだぜーv」
「・・・あのなぁ。戦闘が終わる度にいちいち抱きつくな!」

ゼロスの一言によって、場に溢れていた緊張感は一気に途切れる。
その軽い声を聞くと、一同に自然と笑顔が零れていた。

いつも通り、当たり前の風景。

「・・・とりあえずこの辺りに敵はもう居ないようね。
 今日はもう遅いから、此処で休むことにしましょうか。」
「あぁ、賛成だよ。連戦で皆疲れちまってるからね。」

リフィルの声にしいなはすぐさま反応する。

この日はやけに敵の数が多く、誰を見ても顔に疲れがにじんでいた。
それは、一見いつも通りのゼロスも例外ではなかったのだが、
疲れを表に出すことは彼にとってみれば命を投げ出すようなもの。
そのため彼は、疲れと反比例するかのように騒ぎ立てていた。

「俺さまもさんせーい!!いい加減くたくただぜ〜。」
「どこがくたくただい!元気有り余ってんじゃないのさ!」
「俺さまはデリケートなんだよ。ま、しいなは胸が重たくて余計に疲れそうだけどな!」
「アホ神子!!」

そんないつものやりとり。

仲間達も苦笑しながらその和やかな様子を眺めていた。
しかし何故かロイドだけはそれを見て眉をひそめている。

「なぁ、ゼロス。お前、・・・!?」
「な、何、この揺れ!?」

ロイドの言葉が最後まで紡がれる前に、ジーニアスが困惑した表情で声を上げた。
足元に地震とはまた違った大きな揺れを感じたのだ。

「地震・・・ではないようですね。
 差し詰め、先程のものよりも更に大きなモンスターの足音と言ったところでしょう。」
「うむ。これの主を相手にするとなれば大分骨を折るな。」
「ふたりとも冷静過ぎだよっ!・・・まだ敵は見えないけど、戦うの?」

プレセアとリーガルの冷静過ぎる状況判断に頭を抱えながら、
ジーニアスは恐る恐る姉の姿を仰ぎ見る。
実際、それは随分と巨大なモンスターの足音らしく、
段々と伝わる振動も大きくなっていた。
それはまず間違いなくこちらへと向かっているものだと解る。

「今更逃げても遅いとは思わなくて?敵は間違いなく私達を狙ってるわ。」
「こっちは連戦で体力消耗してるっていうのにね・・・。厄介な相手になりそうだよ。」

色々と仲間達の間で意見が飛び交う中、
ロイドとゼロスは一言も話さず、静かに状況を窺っていた。
ロイドはまた緊張の糸を張った凛々しい顔付きになっている。

しかし、それをまた眺めていたゼロスの額には、汗。



「・・・流石にこれはキツいかも・・・。」



そう空気中へと投げ出された言葉は誰の耳にも届くことはなかった。













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