戦闘が終わった。

そう思って安堵の声を上げようとした時。

プレセアとリーガルの不審そうな声がロイドの耳に入る。

振り向いて見ればロイドの視界一杯に先程の敵の姿。
しかし、ちらりとその端に見つけたのは紛れもなくゼロスの姿だった。

肩で息をしている彼に向かって巨体が突進。
それに気付いてゼロスは顔を上げたが、動く気配はなかった。
否、動くことが出来ないようだった。

「ゼロス!危ないよっ!」
「何やってんだい、アホ神子!さっさと逃げなよ!」
「今からゼロスくんの居る場所に向かっても間に合いません、・・・逃げて下さい!」

ゼロスの状態に気付いていない仲間達は必死で逃走を諮るよう促す。
例え、彼の異常に気付いたとしても敵の移動は速く、
その場所からでは到底間に合わないのは目に見えている。

それでも、ロイドは駆け出していた。

先程、ゼロスの異変に気付いていながらも
声を掛けてやれなかったことを悔やみながら。



無我夢中で。



どすん、と辺り一面に鈍い音が広がる。

敵と、その巨体に接触したゼロスの体が空中に浮いた。
深い森に覆われていたために気付くことはなかったのだが、
ゼロスの居る場所の奥には青い空。




そして、崖。




「っ、ゼロスーーー!!!」

ロイドは考えることも放棄して叫んでいた。
巨体と共に投げ出された紅い髪の男を一心に見つめながら。

「・・・嘘でしょ・・!?ゼロスっ!?」
「くっ、神子・・・!」
「ゼロスっ、ゼロスーっ・・・!」

他の仲間達も崖へと吸い込まれようにして消えたゼロスを見て絶句する。

未だ、ロイドは走っていた。
既に見えなくなったゼロスの姿を追い求めるように。

それを見て仲間達も走り出す。
誰も今起った出来事を受けとめること等出来ないでいたのだ。
何かの間違いであると、その場の誰もが信じたかったに違いない。

一足先にロイドは崖へとたどり着いた。
断崖絶壁をなすその場所を見下ろせば生い茂る木々が視界を阻むのみである。

例えエクスフィアを装備している者であっても、
ここから転落すれば無事では済まない。
それに、ゼロスは恐らく怪我でもしていたのだろう。
それを考えれば、命を落とす危険性も少なくはない。

ロイドは、どんなに思考を巡らせても
悪い方向へとしか向かない頭が嫌で仕方がなかった。

これからどうするべきかを考えることもできずに力一杯地面を叩き付ける。

「畜生!なんで・・・なんでだよ!!」
「・・・ロイド。」

追い付いて来た仲間達が見たのは苦し気に下を見下ろして咽び泣くロイドの姿。
それを見て、どう声を掛けていいのか誰一人わからないでいた。

そんな時、徐にリフィルが口を開く。

「・・・ここは先に進むべきだと言うべきなのでしょうけど・・・。」

「っ!姉さん!!」
「・・・落ち着きなさい、ジーニアス。まだゼロスが死んだとは限らない、そうでしょう?」
「ここから転落して死に至る可能性は、普通の人間であれば80%。
 ですが、エクスフィアを装備していれば60%に抑えられる筈です。」
「・・・今から行けばまだ助けられるかもしれないってことだね?」

「そういうことだな。」

ロイドは相変わらず崖を覗きこんだまま、その話を聞いていた。
頭では、自分はどうするべきなのかを考えながら。

「ロイド!ゼロスを助けに行こう?・・・きっと待ってるよ、ゼロス。」
「そうさ。ここで悩んでたって始まらないよ。
 ・・・あの馬鹿がそう簡単に死ぬ筈ないし、ね。」
「ロイド!」

仲間達の声は痛いくらいにロイドの頭に響く。
実際、助けに行かなければならないとも思っていた。

しかし、ロイドは動かない。




やがて、何かを決定したかのように曇りの無い瞳が向けられる。





















「皆、ごめん。俺、先に行くから、後で迎えに来てくれ。・・・頼む。」




























そういって、自らの体を空中へ放り出した。
















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