眼前に飛込んできたのは青々と息づいている木々の色。
空中を漂う身の行方など歯牙にも掛けず、
ロイドはただひたすらにゼロスのことを考えていた。

崖の上からは仲間達の叫び声が降ってきているが、
しばらくするとそれも聞こえなくなる。
その代わり、浮遊していた体は時間を急に取り戻したかのように重く感じられ、
重力に従って森の中へと突っ込んだ。

普段は穏やかに揺れているだけの葉達がこの時ばかりは
鋭利な刃物と化してロイドの体をかすめて行く。
このまま地面に叩き付けられてはひと溜りもないと思い、
ロイドは器用に後ろ足で木の幹を蹴り上げて近くの別の木にしがみついた。

「っ・・・、結構キツいな。」

崖から飛び降りたというのに、随分と余裕のある口振りである。
しかし、それは飽くまで身体的なことで、精神的にはもう限界といった表情をしていた。

「・・・ゼロス、待ってろよ。直ぐに行くから・・・!」

声に成らない声で叫ぶ。

しがみついた木からさえも夢中で飛び降り、勘だけを信じてロイドはまた駆け出した。



走れど走れど見渡す限りの森。



いつしか日も落ち始め、更には冷たい滴がロイドの頬に当たり出した。

「雨か・・・。っ急がないと!」

ゼロスも何処かで雨に降られているんじゃないか。

そんな事を考えて走るスピードを上げるロイドを
嘲笑うかのように雨も激しさを増すばかりだった。
それは、このまま二度とゼロスと会えないのではないかという不安を増幅させる。

辺りを見回して道を探間でも、行く手を阻もうとするモンスターが幾度となく姿を現した。

当然ロイドの機嫌は最高に悪い。
普段はクールを装うその顔も酷く苦しそうに歪んでいる。

それをみたモンスターは、小さいものであればすくんで動けなくなる。
大きいものであったとしても、ロイドはその姿を目にも留めず、
鮮やかに双刀を使い分け、容赦無く切り捨てて行く。

しかし、やがてロイドの目は崖の側面に人工的な造りの洞窟を映し出した。
真っ暗で、奥の様子はわからない。
それでもロイドの心には、確信にも似た思いが満ちた。

ここに、居る。

その言葉がロイドの頭を横切った。
ただの勘でも今のロイドにはそれに賭ける以外、方法がなかったのだが。
だからこそ、それを信じて歩き出す。

果たしてこの洞窟に続くのは光か、闇か。

不安など、もう無くなっていた。


















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