ヤバい。

頭ではちゃんとわかっていた。
それでも体は思うように動こうとはしてくれなくて。
そうこうしてる内に敵の姿は目前。
死んでもいいかなとちょっとは本気で思ったんだぜ?

でも、あの馬鹿が俺さまの名前を叫んだのを聞いたら、
そんなこと考えた自分が馬鹿だと思えてきたわけ。
だからせめて祈る位はしておこうって、目を閉じた。

次の瞬間には体から鈍い音。

その後に世界そのものから押し潰される様な錯覚を覚えた。
痛みなんてどこへやら。
今はそれだけが救いだった。

体に伝わるのは奈落の底まで堕ちていきそうな感覚だけ。
ハニー達が俺さまの名前を必死で呼んでくれてた筈なんだけど、
今は何の音も聞こえない。

何の音も。


そろそろ地面に辿り着いたっていいんじゃないのか?

それとも、マーテル様だか何だかの神様が
死ぬ直前に人生振り返る時間でもくれたってか?

冗談。
振り返るほど濃い人生、送って無いぜ?俺さま。

そういえば、俺さまの目には真っ暗な闇色しか広がってない。
あぁ、目、開けるの忘れてた。

さて、何が見えるのやら。

そう思ってゆっくりと目を開いた。

すると、今までのことが嘘のように全身の感覚がつき抜けた。
ざぁっと、地面にのしかかるような雨の音が遠くに聞こえる。
と言うことはここは外じゃないってことだよな。
目の前は相変わらず暗かった。
それでも目がなれていたため、辺りを確認することだけは可能だ。

体は未だに動かすのがつらい。
そもそも、こんな状況に陥ってしまった原因は
俺さまの体調の悪さが祟ってのことである。

「・・・目が覚めたか?」
「!?」

不意に暗闇の中から声がした。

どこかで聞いたことのある声、と言うよりも耳によく馴染んでいる声である。
どうせ真っ黒い虫みたいな服を着ているのだろうから、姿を探す気も起らない。

「・・・もしかしなくてもアンタが助けてくれたのか?」
「あぁ。・・・丁度よく通りかかったのでな。」
「随分と変な所を通りかかる天使サマで。」
「・・・それだけ喋れればもう大丈夫だな。」

くすり、と静かな洞窟らしきこの場所にに微笑が零れる。
笑われるのは気にくわないが、ホントによく笑うようになったよな、クラトスの奴。

「・・・まぁ、助けて貰ったことには素直に感謝してやるけど。ここどこだよ。」
「・・・相変わらずのようだな、ゼロス。
 ここはお前が転落した崖の下にある、人工的に作られた洞窟だ。」
「ふーん。」
「・・・質問しておいて随分な返答だな。」
「ロイドくんの真似だぜ?」

人工的、ってのがちょっとひっかかるけど、気にしないことにする。
早くあいつらと合流しなきゃなんないんだから。
今頃俺さまが死んだと思って先に進んでるだろうし。
あいつらにとってみれば俺さまなんかいない方が間違いなく幸せだけどな。

それでも、俺は。




















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