「・・・ゼロス?」

ゼロスとクラトスの二人だけだった筈の洞窟内に、全く別の声が飛込んだ。

声の主は激しい雨に打たれたためか、
衣服が大量の水分を含み、重そうにそれを滴らせている。

「・・・ロイド、くん?」

一瞬ゼロスはそれが誰だかわからなかった。

彼がこんなところに現れることなど有り得ないと思っていたから。
真っ暗な洞窟には今にも消えてしまいそうなほのかな明かり。
それでもお互いの顔はとても鮮やかに映し出されているように思えた。

「ゼロスっ・・・やっぱり、ここに居た。」
「ちょ、・・・ロイドくん!?」

一言だけ発した後、ロイドは勢いに任せてゼロスに飛び付いた。
普段なら逆なのにな、と心の中では思いつつもそんなことを気にする余裕もなく、
しどろもどろとしているゼロスを腕の中へとしっかりと収める。

「ろ、ろいどくん。俺さま、抱き締めてくれるのはとっても嬉しいんだけど・・・。」
「だけど、なんだ?」

「・・・クラトスが見てる。」

「・・・。」

真っ赤になったゼロスを尚も放そうとはせず、
押し黙ってロイドは顔を上げてみる。

すると、そこには言葉通り。

「・・・仲の良いことだな。」
「な、な、何でっ・・・!」
「神子を助けたのは私だか?」
「・・・そういうこと。」

裏切り者だとかクルシスの天使だとかいう意識が
その時ばかりは見事にロイドの頭の中から取り払われていた。

だとしたら、残っているクラトスに対しての意識は只ひとつ。

実の父親の前で一目瞭然な行動を取ってしまったという、
それに他ならなかった。

ゼロスという愛しい人を抱き締める。
それが女性であるか、又は勢いに身を任せた行動であったと
直ぐに腕の力を弱めればよかったのだが。

そんな余裕はもはや存在すら許されなかった。

それ故にこれをどうやって説明すべきかとロイドは目を白黒させている。

「えーと、その。お、俺!実はゼロスのことが・・・。」

「待て。・・・それ以上言われたとしても私が困るのだが。」
「・・・ごもっとも。」
「え!?で、でも俺、本当にゼロスのことっ・・・。」

もう一度言いかけたロイドを
今にもジャッジメントでも放とうかというクラトスの眼光が制止させた。
ゼロスもロイドの腕の中で大きく溜め息をついている。

その溜め息に含まれていたのはロイドの行動に対する呆れのみではなかったが。

「・・・私はもう失礼する。ロイド、怪我人に無理をさせるなよ。」
「わ・・・わかってるよっ!」
「俺さま、ロイドくんになら何されてもいいケドねーv」
「な、な何言ってんだよゼロスっ!」

本来なら感動の再会、といった場面になるべきなのかもしれないが、
今現在ではそのような雰囲気は皆無である。

言うなればロイドは嫁と姑に挟まれる夫。
ゼロスは魔王に捕われて王子に助けられる直前の姫。
どちらにせよ邪魔者扱いされてしまうという
虚しい立場に居るのがクラトスであった。

真っ赤になって言い合いをしているロイド達を尻目に、
クラトスは静かにその場を去った。


その後ろ姿に言い知れぬ気迫が満ちていたことは誰も知らない。














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