「ところでさ、ロイドくん。どーやってここから皆のとこまで戻るわけ?」
洞窟に木霊していた雨音が段々と弱くなるのを感じたゼロスは、まだ痛むらしい身体を摩りながら素朴な疑問を口にする。
結構な高さだったよなー、などと軽い口調で付け加えながら。
「・・・そんなのこっちが聞きたいよ。皆が見付けてくれるのを待ってるのも性に合わないしなぁ・・・。」
「ま、じっとしてたって始んねぇし。兎に角そろそろ外出てみようぜー。」
長い時間腰を据えていたその場から勢いよく立ち上がる。
だが、歩き出そうとしたゼロスの体が一瞬強張ったのをロイドは見逃さず。
「ゼロス!」
倒れかけたその身体を素早い動作で支えてやった。
触れた身体は先程よりも酷く小刻みに震えていた。
「あ、あははー・・・何でもねーよ。ちょっと・・・立ちくらみしただけー。」
「何言ってんだ!震えてるじゃないかよ!」
飽くまで強がろうとするゼロスを無理矢理に抱き寄せる。
しかし抱き寄せたその体に力はなく。
えへへ、と作り笑いを浮かべる様子がコレットに似ている、とロイドは思った。
「・・・ごめん、ロイドくん。俺さま、ちょっと眠いから・・寝る・・わ。」
「・・・あぁ、眠れよ。」
「うん・・・ごめんな。・・・おやすみ。」
余程無理をしていたのかすぐに静かな寝息が聞こえてきた。
それに安心して、また元の位置にゆっくりと座り込む。
「・・・馬鹿野郎。」
強がって、強がり続けてそれが当たり前と化してしまったロイドの腕の中で眠るこの青年。
今までどんな風に生きてきたのだろうと、考えれば考えるほどそれは痛みとして重く胸にのしかかる。
「俺は、お前を守りたいのに・・!」
自分がどれだけ無力で愚かであるかと常にロイドは悩み続けていた。
大切で、掛け替えのないゼロスという人を守るために自分が何をできるのか、と。
ただ、それだけを。

初めて強くなりたいと思ったのはいつの頃だっただろうか。
思い返してみれば、物心ついたときには既に剣を振っていたという記憶がロイドの中にはあった。
今思えば、クラトスやアンナと過ごしただろう失われた記憶の中にこそその想いはあったのかもしれない。
だが、それは何かを守りたいという意思があってのものではなく。
そう、何かを守るために強くなりたいと思い始めたのはつい最近のことだ。
具体的に言えば、天使化していくコレットをただ見ていることしかできなかった悔しさを覚えてからだろう。

大事なものは必ず自分の手で守り通してみせる。
だからこそ、守るため強さが欲しい、と。

そう思って心新たにテセアラでの旅を始めたのだ。
そして、ゼロスと出会い、直感した。
ゼロスは自分の守り通すべき、つまりは「運命の人」だと。
感じた自分をロイドは馬鹿馬鹿しくも思ったが、旅を続けるうちに思いは増す一方で。
だからこそもう迷うことなどなにもない。

腕の中で静かに眠るゼロスの頭を撫でながら、ロイドはもう一度強く決心する。






守るべきものを今、ここに見付けた。






























next