海外派遣研修報告    「みやぎの林業だより」掲載



 1998年9月16日〜10月2日、林業普及協会主催の「平成10年度指導的林業者等海外派遣研修北米コース」に参加し、カナダ・アメリカの西海岸の林業、製材工場、合板工場、建築現場等を見てまいりましたので、その一端をご報告いたします。


 カナダの林産業の現況は、日本を含むアジア向けの輸出が、日本の不況やアジア経済の下降の影響をまともに受け低迷している。対日輸出が対前年比50%近い落ち込みとなったため、その対策に米国輸出を増加させる計画を立てていたが、アジア向けの輸出の事情は米国とて変わらず、カナダとアメリカの間で対アジア向けのシェア争いと同時に、米国内のシェア争いが行われている。従って、価格は低迷し林材業の利益は減少している。その上、好況だった米国内の景気が落ち込むようなことがあれば、材がもっとダブつき低迷が長引く可能性がある。
 そのような状況の中でも合板の生産消費量はあまり変化がない。その原因は、世界でも有数な針葉樹・広葉樹があるという背景のもと、徹底した品質管理で、ほとんど世界中の規格をクリアーできること、ノンホルマリン処理等の市場の要求を早急に実現していること、品質管理のための業界団体が実際に強度試験を継続的に行い認証していること等々、マーケットのニーズを的確に捉えて対策を怠らないからであるようだ。実際に、カナダ合板協会で合板の品質試験を見せてもらったが、合板各社の異なる製品サンプルを定ロットごとに抽出し、水湯暴露、減圧加圧、引っ張り、せん断、ホルマリン等の各試験を地味に行っていた。試験後、各国の規格とカナダ合板協会認証のスタンプ刻印を各合板会社に与えている。

 日本においては、平成10年6月に「建築基準法が改正され、『性能基準』を満たせば選択の自由度が拡がり、海外資材等の参入も容易となる環境が作られた」(三橋東北大教授)ところであるが、そのような動きの中で、日本に照準を合わせたわけではないだろうが、合板業界の取り組みは的を得たものだ。市場のニーズがどこにあるかをしっかり見据えて、その対策をとる事が産業としていかに大切なことか、あらためて感じた。ばらつきの多い木材で「性能規定化の流れを受けて、住宅の構造安全性を定量的に評価するためには、そこに用いられている木材の性能も明確に示される必要があり、・・・(中略)・・・性能設計に用いられる木材ではその一本一本の剛性の表示が不可欠となろう」(三橋教授)ということであるが、国産材にそんなことが可能かどうか、悲観的になってくる。最悪の場合、集成材しか生き残る可能性がないかもしれないということを認識しなければならない。


 北米の製材工場では、日本の労働基準局ではけして許可しないだろうというような労働環境であった。しかし、工場の最終ラインの製品の検査格付けは、すべての製材品の4面をチェックし、最上級のものだけが対日輸出へ回されるのだそうで、オールドグロスの角材などほれぼれするような材である。このような材であれば、乾燥させるという条件は付くが、性能基準に適合するのかも知れないし、合板のように現地で性能認証のスタンプを押して輸出されてくるのかも知れない。

 さて、林業であるが、北米の針葉樹は質・量ともに世界一と聞いていたが、まさにその通りであった。気温はほぼ日本の東北・北海道、降雨量は半分ぐらいであるが、夏の乾期を除けば日本並というところ。オールドグロス(古木)の森林は、けっこう下層木もあり森林土壌は意外にも肥沃である。カナダでは亜寒帯ということもありそうでもなかったが、米国では皆伐し再造林した森林にも下草が生えていて、日本の森林と見まがうばかりである。下刈りはほとんど行われず、専門業者のヘリコプターによる造林地への除草剤の散布が行われている。
 会社有林、私有林の伐採現場における労働生産性は、木が太いということともに機械化が進んでいるためとてつもなく大きい。たとえば、ウィラメットインダストリー社の現場では、44年生のダグラスファーの間伐で、グラップルハーベスターとフォワーダーを一組にして二人で作業し、生産量50立米/日であった。また、私有林の現場では、伐木2〜3人、玉掛け1人、タワーヤーダーグ及びグラップル1人、荷はずし玉切り1人という構成で施業をしていた。元玉の径級はほとんどの木が1m程度であるからだいたいの生産量の想像はつくであろう。地形も、ロッキー山脈のふもとということで日本と大差がない。但し、林業労働者の社会的な地位はあまり高くはなく、労働時間も日本より長く、サラリーも日本と大差ない。

 オレゴン州の私有林の場合はコンサルタントが所有者と請負会社の間に入り、報酬を得るというのが一般的である。その方が個人で同様なことをするより手取額が増えるそうだ。木材を高く売り、林産業者に安く請負いさせればその分コンサルタントも儲かるしくみなのだ。コンサルタントもプロフェッショナル、所有者に対しても、業者に対しても信用第一ということを信条としている。コンサルタントの報酬は売上の5%程度との事だった。

 環境問題に対する対処であるが、「北米のブラジル」と環境団体から批判されたカナダでは、森林組合(といっても林材関係業界の広報センターのようなもの)が、グリンピースその他の環境論者の対策にあたっている。しかし、環境団体と対決するという姿勢ではなく、環境問題に対する研究、情報提供、相談を通じて、環境問題と林材業の共生を図っているようであった。カナダBC州政府は、「森林リニューアルBC」という政策を実行中でその中で環境、雇用、林業施業、地域社会維持対策等を包含しながらの対策をとっている。また、先住民(イヌイット)の権利も近く認められ、国有林を彼らに返還する動きもあるようだ。
 米国の場合は、白頭鷲やマダラフクロウ等の生息域の保護のため、会社(所有者・伐採者)が莫大な費用をかけその森林の生態系、伐採の影響等について学者等を入れた本格的なリサーチを行い、計画を州政府に提出し許可を受けてからの伐採となる。また、国有林等においては、オールドグロスの伐採や先住民問題(アメリカインディアン)についても議論の的となっており、たとえ伐採権を獲得している企業でも締め出しを喰っている。カナダ・米国ともに、環境保護は社会のありふれた通念になっているようだ。
 それにしても、一歩都市の外に出れば、ロッキー山脈へと続く山河は、日本の40〜50年前のように美しく水は澄み渡り、林道沿いにゴミを見つけるのにも苦労する。このようなところで、環境問題を議論する必然性があるのだろうかとさえ感じてしまう。

 北米の林業、木材産業が、環境問題、先住民問題等の原因で、伐れるロットがだんだんと小さくなってきている事は間違いはない。しかし、もともと巨大な森林資源量を持っているため、それが本当に目に見える形で現れてくるかどうか。米国の社有林・民有林の合計面積だけでも5千万ha!(日本の森林面積の倍)、米国だけでそれだけの面積があるのだ。その資源が今後合板業界のように高付加価値をめざしている。たとえば、北米材が乾燥材、集成材等の加工をして建築基準法の「性能規定」にことごとく合致するような付加価値を持った仕様で、日本の住宅産業に流入して来るとすればどうなるか。
 早々に日本の林材業も、具体的な対策を考えなければならないだろう。


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