今、ここに一冊の本がある。改めて読んでいる。ビル・エルモットの「日はまた沈む」である。
この本は1990年に書かれた。そしてこの頃は日本の力は世界最高になったと浮かれていた
頃である。この日本の風潮に警鐘を鳴らす意味で書かれたこの本の内容は改めて勉強になる。
昔から言われている。「有り難い言葉は、その時には解らない」。
さて、現在の日本はエルモットの言っていること以上の悲惨な状況になっているが、そのことを
日本人は理解していない。
ある意味では幸せである。
私は長年工業教育に携わってきており、その間、県内産業界の動向をじっと見続けてきた。
しかし、産業界のみならず、日本全体が心配になっている。誰もが知っているとおり、
この資源のない日本は、何とか「ものづくり」により世界と渡り合っていかなければいかないのに、
肝心の「ものづくり」が出来なくなっているのだ。
現状では、学校を出ても就職出来ない若者が急増していくこととなる。働かない、働けない社会が
目前である。これではいけない。こう強く考え続けてきた。
この現象の大きな原因は国内からの「ものづくり企業の海外脱出の増加」である。
我々の身の回りを見てみよう。大きな会社が無くなっているのに気がつくはずだ。
これに倒産と廃業、リストラがからみ深刻な状況である。
しかし、多くの人は、じっと待てばそのうち元のような好景気がやってくる。それまでじっと
待てばいい。ガタガタ騒ぐなという人が多い。それが正しいのだろうか。手遅れにならないのだろうかと
私はここ何年間か憂慮してきた。
今年3月、幸いにも退職を迎えることとなった。現役時代はとても忙しく海外の産業界を見るなどと
いうことは出来なかった。
ようやく時間がとれるようになったのだから海外の企業の産業視察をしなければならないと考えた。
しかし、一般の観光コースでは不可能であるし、行政や団体の視察研修では形が整えられてしまい
企業の本当の生の姿は見られない。出来るのは現地の工場をフリーな個人の身分で見学することである。
幸いにも、私の現役時代に、互いに助けたり助けられたりした企業数社から便宜をはかってくれる温かな
協力をいただくことが出来た。
よし、準備は出来たとばかりに、旅費や小遣いを奥方から捻出し海外企業の工場見学をすることとした。
まずは中国国内の日本企業の工場見学をすることに決定した。
訪問期日は、平成14年5月26日出発、29日戻るという日程である。
折悪しく日本総領事館への亡命騒ぎやワールドカップ等の影響かビザがおりたのは24日、
受け取りが25日というギリギリの日程となった。
何度か海外に行っているのだから、何とかなるだろうという気持ちで決行することにした。
しかし、現地の企業の代表との話の時に「近藤さん、空港から会社までどうするのですか?」
と聞かれた。私は「空港からタクシーに乗って行きます」と答えたら「オーそれは危険だやめてくれ」
と言われた。結局空港からホテルには現地旅行社と契約し、ホテルと工場の間は企業にお願いを
することとなった。
現地の厳しさを改めて知らされることとなり生きた勉強となった。
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