「何作ってるの」
テーブルの下から好奇心に満ちた目が覗いている
「何って………」
言われた言葉に、首をひねる
料理をすることは先に言ってあるし、匂いだってしてるはずだ
「ご飯作ってるのは知ってるの」
まっすぐな目がじっと見つめる
「何の料理かが知りたいのか?」
よくあることじゃないが、匂いにつられて聞きに来ることは何度かある
「んっと、そうなんだけど、そうじゃなくて………」
言葉を捜すように、視線が辺りをさまよう
「もうすぐだよ?」
小さな指が壁に掛けられたカレンダーを指す
「もうすぐ?」
カレンダーの中、目立つようについた印
「ああ、そっか、そーいやそーだな」
聞きに来たのは今日のことじゃなくて
見つめれば、わくわくした視線に迎えられる
「これが終わったら、準備をするか」
「うんっ」
俺の提案に満面の笑みが浮かんだ

「ちっと、形は悪いけど、味は保障つきだからな」
上手く形をつくることができずに、斜めになったケーキ
一部が焦げた肉
煮込みすぎてとろとろになったスープ
綺麗に作ることは出来なかったが、味見は慎重にした
いつもと味は違うが、これはこれで美味いと思う
「ほんとに美味しいんだよ」
味見に舐めたクリームを頬につけたままの力説に、見えないところで苦笑して、こっそりと合図を送る
一緒に料理をする
って宣言はしていないが、それとなく伝えている
心得ている
というように、そっと動いた視線が合図をくれる
「味見をしたのなら確かよね」
細い指先がクリームを拭い、指先が唇の中へと消える
「ほんと、美味しいわ」
笑いかけながらの言葉に、満面の笑顔が浮かぶ
「今日は僕も手伝ったの」
「あら、ほんと?」
「ああ、随分助かったんだぜ」
「そう、だからいつもより美味しいのね」
「ほんとっ!?」
「そりゃ、ねーぜ」
同時に上げた声に、明るい笑い声があがる

「んじゃ、今年は、一緒に料理を作ってみるか?」
聖なる日が近づくと、彼女の仕事は忙しくなる
それでも、聖なる日は家族で過ごすための日
忙しい彼女に代わってこの時期は家事も準備も引き受けて………
「ほんと?」
少しずつ進めた準備は、子供の目には遅れて見えていたらしい
「ああ、一緒にしてくれると随分助かるんだけどな」
準備も早く進むし………
呟いた言葉に、目が輝き
「手伝う!」
予想通りの言葉が飛び出した

「それじゃあ、改めていただきましょう?」
席に座って、いただきますの声
自分の味付けとも、ジュリアの味付けとも違う味
でも、この味もちゃんと美味しいよな
優しい味付けに、自然に笑みが浮かんだ



素材:SMAC