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はじめの一歩
 
  
 
 スコールのその平穏な日常は、ある日を境に一変した
 それは、朝の目覚めと共に、スコールの元を訪れて
 事態を把握する暇もなく、スコールを騒ぎの渦中へと巻き込んだ
 その元凶の名を“ラグナ”と言った
ラグナは、とにかく一生懸命話をしていた
 まずは、以前先送りにした、レインの事から始まって、そして、自分の事……
 そして、更にスコールが何者なのか、どうして、こんな事になったのか……
 めったに口をはさむ事なく、ただ聞くだけのスコールを相手に話をするのには多少のやりにくさを感じるのか、ラグナの話は、不必要にとぎれたり前後したりする事が多かったが、大概はいつもの調子で力を入れればいれる程、弾丸の様に話した
 それでも、スコールは、めずらしく黙って聞き続け……
 スコールの多大な努力の上で、ラグナは自分が知りうる限りの真実を話し、自分が思う事を話す事ができた
 そうして……
 「長い間放って置いて、悪かった!」
 そう言って、スコールの前に跪き、潔く土下座した
 目の前で土下座するラグナを見ても
 「…………別に」
 あいかわらずスコールの態度は、至ってそっけなく、ラグナにはどう判断していいものなのか見当もつかなかった
 さすがに無言で自分を見上げるラグナの様子にその困惑に気が付いたのか、それともただの気まぐれだったのか
 「……謝られる様な事じゃない」
 スコールは、言葉を追加した
 「……事じゃないって……」
 ラグナはその言葉を聞いて、情けない顔をしてスコールを見上げる
 すぐに返された
 「状況は理解した、それも仕方のない事なんだろう」
 スコールの言葉に今度こそラグナは、がっくりと肩を落とす
 「………そうだよなぁ、やっぱりダメだよな………」
 座り込み肩を落としたまま、ラグナは嘆く
 「…………」
 「……今更だよなぁ〜」
 ふかぁ〜い、ため息をつき呟くラグナをスコールは、訳が分からない、とでも言うように見ている
 「気にすることはない」
 対照的な二人の様子を少し離れた場所で見守っていた、キロスが声をかける
 「君に、親だと認めて貰えそうもないから落ちこんだだけだ……」
 スコールはまったく考えてもいなかった事を告げられ、キロスを見つめ、ラグナへと視線を戻す
 その視線はまさに、『なにを考えている?』といった風情で、密かにラグナを傷つけた
 「いや、いいんだ、突然現れて親だなんて言われても実感がないってのもわかるし」
 気にするな、別に落ちこんじゃいないと、言い聞かせるように言い
 照れ隠しの様でいて、困った様なそんな笑いと雰囲気で前髪をかき揚げる
 立ち上がり、足元を見つめて
 「……また……、話しに来てもいいかな?」
 何も言わない、言う言葉が見つからないスコールに、ラグナが気弱に問いかける
 「………好きにすればいい……」
 僅かな瞬時の後、スコールは最大の譲歩を見せる
 スコールのその言葉に、ラグナは子供の様な笑顔を見せ、“またくるから”の言葉と共に帰っていった
 「でな、……………」
 スコールは、あの日以来、近所に住む家族とでもいった風情で、頻繁に訪れて来るラグナに、あの日来てもいい、と言ってしまった自分に少し後悔していた
 ラグナは、バラムガーデンが常に移動しているというにも拘わらず気軽にスコールを訪ねてくる
 そのガーデンの位置を正確に割り出しているのが、エスタの技術力によるものか、ラグナ自身の運によるところが大きいのか、はっきりしたことは今のところは、まだわからない
 そして今日もラグナは、当たり前の様にスコールの元に顔を出し話をしている
 とはいっても、スコールは必要以上に無口で、ラグナはそれと対照的に話し出すと、止まらない程饒舌だ
 となれば、ラグナが一方的に話をする構図という予測がつくのだが、そこは、長年の経験なのか、はたまた成長の現れなのか、ラグナ自身、話し続けると言う訳でもなく、極まれなスコールの話を待ち、有る程度普通の会話を成り立たせている
 それでも話をする比重は、圧倒的にラグナの方が多くなるのは、仕方がない事なのだが、さすがのラグナも、自分ばかり話し続ける事数回、話の題材が、乏しくなってきた
 「…………スコールは、俺に話したい事とか、言いたい事とかないのか?」
 ふと会話がとぎれたこの時、ラグナは少しの期待を含みながら思い切ってそう言ってみた
 「…………特にないな」
 改めて、話す事はなんにもなかったと思っていたスコールは、ラグナが恐れていた返事を考える事もなく返した
 「そ、そうか……」
 何でもいいから話をして欲しいラグナは、予想通りの返事にがっくりと肩を落とす
 …………………………
 落ち込むラグナを、まだ相手が読み切れていないスコールは、ただ見ている
 ラグナが話をしないために訪れる、僅かな沈黙
 「じゃ、じゃあ!」
 スコールとは逆にある程度相手の反応、性格を掴んだラグナは素早く立ち直り、話の角度を巧みに変える
 「じゃあ、次に来る時にはスコールの身近な事を話そう、な?」
 だから、何か少し話す事を用意して……
 言葉にならない言葉をそっと祈る気持ちで思い
 強引に約束をし、ちゃっかり次の訪問の約束まで取り付けて、ラグナはとりあえず、今日の成果に満足して帰っていく
 そうやって、何度かの交流を持ったある日の事……
 「ね、ね、スコール、たまにはあたしもラグナ様に会わせてよ」
 当然の様にラグナロクで、バラムガーデンの元にやってきたラグナをめざとく発見し、セルフィは面会に呼び出されたスコールを捕まえた
 嫌そうな顔のスコールにかまわずセルフィはお願いを続ける
 「スコールと違って、ラグナ様と話しする機会なんてめったにないんだからっ、スコールの話が終わった後でいいから、ねっ」
 両手を合わせて拝まれ、セルフィにしつこく頼まれる
 「……話したいのなら、好きにすればいいだろう……」
 「え〜、ダメだよ、スコールと話したらすぐに帰っちゃうじゃない」
 相手にしようとしないスコールにめげる事なく
 「だから、スコールから言ってよ」
 尚も頼み込む
 ……………
 強引な態度にかすかにむっとする、スコールに気づかないのか、
 「頼んだからねっ!」
 セルフィはしつこく頼み続け、ラグナが待つ部屋の前でやっとスコールから離れた
 むっとしたまま、スコールは、扉を開ける
 「スコール!」
 セルフィのとの会話で、多少いらいらした気分のスコールに、ラグナは上機嫌に笑いかける
 機嫌の良いラグナに多少面白くない気分で、スコールはいつものように話を聞かされ……
 「うるさいっ!」
 いらいらがつのったスコールは、多少の八つ当たりで、機嫌悪くラグナをどなりつけ、その怒鳴りつけた勢いのまま、驚いているラグナを部屋に残して足早にどこへともなく立ち去った
 残されたラグナは訳がわからないながらも、自分がスコールの機嫌をそこね、怒らせてしまったことを嘆き、取り残された部屋で一人落ち込んだ
 「あたし、悪い事してしまったんやろか?」
 その日は、その後スコールと会う事も出来ないまま、訳も分からないながらも意気消沈し、帰るラグナの様子にセルフィは、深く反省していた
 「あれは、自業自得だ」
 たまたまセルフィの側を通りかかったキロスはその言葉を聞き止めた
 「!キロス、さん?」
 驚いたセルフィが「でも…………」と続ける事情を聞いてもキロスの意見は変わらない、そして、止めの言葉が
 「それにラグナなら、すぐに立ち直る」
 だから、気にする事はない……
 というもので、それを後押しする様にキロスの背後で、ウォードがその通りだ、と何度も頷いている
 「それで済むんやったら、いいんけど……」
 キロスとウォードの力強い確信に励まされ、セルフィは、どこかずれた納得をした
 そして、いつもより数日の空きがあった後日、ラグナはキロスの言葉通り、何事もなかったようにスコールの元を訪れた
  
   
END 
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