小さな出来事


 
エスタからの依頼で、長期の任務に携わっているその仕事の合間、スコール達は、息抜きにと街へと出かけていた
当然の様にスコールも連れ出されていたが、誰も特に目的を定めていた訳でも無かったため、自然女性陣に引きずられるようにしてショッピングモールへと足を踏み込んでいた
エスタの品物は品質が良くて安いから、と最もらしい理由を付け仲間達は我先にと買い物に励み始めた
スコールは、困惑したようにその様子を見ていた

彼等は、目当ての店を見つけ駆け込んで行く
別に欲しい物も無かったスコールは、見るともなしにウィンドウを見ていた
興味を引く物もなく、スコールは視線を流しながら歩く
観光客の為に、と配置された僅かなスタッフの姿が視界から消えていく
スコールが進むに従って、元々少ない人の気配が、ますます少なくなっていく
いつの間にかスコールは中心地から外れ、裏通りへと足を踏み入れた
上品なたたずまい
同じ商店街のはずのその場所は、まったく違う顔をして、スコールを待っていた
こういった雰囲気に慣れないスコールは、戸惑いながら歩みを進める
「あ………」
吸い付けられるように視線が止まった
言うならば一目惚れ
スコールは、ウィンドウを飾るその商品の側へと近づいていく
驚いたように目を見張り、そして、深いため息をついた

「あれ?」
見知った人影を見掛け、ラグナはふと立ち止まった
ショッピングモールを楽しそうに歩いているのは……
ゼルだよなぁ?
「…………」
動かした視線の先にセルフィとアーヴァインがいる
楽しそうなスコールの友人達の姿を見て、ラグナは微笑みを浮かべる
そして、もう一度辺りに視線を巡らす
……やっぱりいねーな……
スコールの姿だけが見あたらない
「これは、1人でどっか行ったな……」
たまにはこうやって、友達と出歩くのも悪くないと思うんだけどな……
不本意そうに彼等に連れられてくる
そんなスコールの姿が思い浮かぶ
さて、どの辺に行ったんだろーな?
ちょっと探してみっか
ラグナは人目を避ける様にして裏通りへ入っていった

高級商店街の半ばでラグナは、立ち止まった
………何やってんだ?
なんとなく歩いてきた馴染みの店先で、動こうとしないスコールがいる
口を開き声を掛けかけて、思いとどまる
タイミング悪いと機嫌損ねるし……
もう少し様子を見るつもりでラグナは、身を隠せる場所を探す
目に入ったのは、スコールがいる店先から道を挟んで2件ほど行った所にあるカフェ
通りに面した場所は、ガラス張りになっていて、様子を見るのにはちょうど良さそうな感じだ
いつまでもこんな場所にいたら気づかれるしな
普段ならとっくに気づかれてるはずなのだが、集中しているらしいスコールはまだ気づかない
いつ気づくか解らないしなっ
ラグナは気付かれない様、足早にカフェへと向かった

……どうする?
スコールは長い間悩んでいた
気に入った品物は、値段が高いのだが
無理をすればどうにかなるかもしれない……
エスタの高品質を売り物にした高級品とはいえ、まったく手が届かない範囲でもない
どうする?
尚もスコールは考え込む
だからと言っても、スコールにとって高い事には変わりは無い
長い時間その場にいるスコールを、店員が伺い見ている
………………
もう一度良く考えようと、俯いたその時、スコールの脇をすり抜ける様にして、人が中へと入っていった

反射的に顔を上げるが、扉は閉じた後
中に入っていったのは、きっと買い物客
スコールの心に少しばかり焦りが浮かんだ

ウインドウを見つめたまま立ちつくすスコールの様子をラグナはこっそりと伺っていた
……いつまでやってんだろうな………
ラグナがスコールの様子を見守り始めてからすでに30分近い時間が流れている
SeeDの給料ってそんなに安いのか?
欲しい物があるらしいことはラグナにも予想がつく
………さぁて、どうするかなぁ〜
どうしても欲しいんなら、買ってやりたいけど、素直に買ってくれなんて言わないよな……
相変わらずスコールは動かない
……すごい集中力だよな……
場所柄人通りは殆ど無いが、全く人がいない訳ではない
結構注目集めてるぞ……
いつもなら、人の視線には敏感過ぎる程敏感なくせに、今日は全く気づいていない
さりげなく金を払う方法、か………
少しの間考えていたが、不意に勢い良く立ち上がり歩き出す
ま、先に払っちまえば問題ないよな
いくらなんでも、手に入れたもの返すって事は無いだろうし、コレが一番良い手かもな
上手く行く事を願いながら、ラグナは、スコールの側を足早にすり抜け店内へと入っていった

「……たぶん、そろそろ来ると思うんだ……」
店の外を伺いながら、ラグナは店員と話しをしていた
「はい、了承致しました」
笑いをこらえながらの店員の返事
いや、笑い事じゃないんだけどな……
ラグナは、スコールの様子に視線を走らせる
「まぁ、そう言うことで頼むわ」
店内をスコールが歩くのに気づいて、ラグナは、死角になる位置へと慌てて身を隠す
なんか、情けないよな……
ラグナの思いを感じ取ってか、店員が小さく笑った

いったいどうするつもりなんだ……
分割で支払うつもりではあったが、断る事が出来ないままに押し切られ、スコールは、数点の品物を購入していた
……払えるのか?
正確な値段も良く解らないままに購入を決めてしまって、今更ながらスコールは後悔している
「以上でよろしいですか?」
そう確認した店員の視線が、ウインドウへと流れる
「…………」
外の景色がしっかりと見える
思わずスコールは硬直した
「あちらの商品もお求めになりますか?」
満面の笑顔
スコールは、気圧された様に頷いていた

「ありがとうございました」
代金の事を一度も口にしないまま、包装された商品が差し出される
……ちょっと待て……
内心の声等聞こえるはずも無く、終始笑顔を浮かべた店員に扉へと導かれる
「代金……」
言いかけたスコールの言葉をうち消すように
「またお越し下さい」
店員が声を掛ける
押し出される形で店の外へ出たスコールの目の前で扉が閉じた
………何が起きたんだ?
閉ざされた扉をスコールは呆然と見つめていた

「お買いあげありがとうございます」
やり手の店員がにっこりと微笑んだ
「また、随分買ったな」
店の奥まった場所でコーヒーをごちそうになりながら、ラグナは一部始終を見ていた
「そうですわね」
上手に品物を買わせた本人が、澄ました顔で答える
まぁ、いいけどさ……
示された金額に目を走らせ、ちょっと苦笑する
「一般のお客様には商品を勧めたりはしませんから」
店員の言葉が余計に苦笑を誘う
「いつでも俺が払う訳じゃないからな」
……足りなかったら請求回ってきそうだけどな……
簡単にラグナはサインして渡す
後は、スコールに見つかんねーようにしないとな
人が居なくなった店内へと視線を巡らす
もう少し時間つぶさせて貰うか
支払った金額を頭に思い浮かべる
しばらくの間大きな顔してられそうだしな

そして……………
ラグナは街角で荷物を抱えたスコールと出会った
僅かな沈黙の時間が過ぎ
ラグナの背中を冷や汗が伝い始める頃、スコールは脇を通り抜けていった
「…………」
え?
通り過ぎる瞬間小さくささやかれた言葉を耳にして、ラグナは驚いて振り返る
言われた言葉をもう一度反芻して、ラグナの頬は緩んだ
 
 

 
END