よくある出来事


 
早朝階下からかすかに音が響いた
何かがぶつかり合う音
人の話し声
遠く聞こえる音を夢うつつに聞いていた
すぐに静寂が訪れ
再び、深い眠りの中へと落ちていった

目覚まし時計が軽い音を立てる
聞き慣れた音でエルオーネは目を覚まし、起きあがり
…………あわてて布団の中に潜り込んだ
朝晩の冷え込みが厳しくなってきた
夜、暖房を入れずに過ごすことができない
朝起きるのがつらい
しばらくの間躊躇して
誘惑を振り切って起きあがる
朝の冷たい空気に、エルオーネは身震いした
あーあ、毎朝いやになっちゃうな……
暖かそうな布団に未練を残しながら、エルオーネは手早く着替えをすます
ここで、負ける訳にはいないものね
他に起こしてくれる人がいない
冷えた部屋から逃げるようにエルオーネは、部屋を飛び出した

温もりの残るダイニング
暖かい空気に触れ、体のこわばりが解けていく
気がゆるんで、ふとテーブルの上を見て
脱力感におそわれる
テーブルの上には食事の途中で投げ出された、食器が散らかっている
ほかに住人のいないいえの中で、これが誰の仕業なのか、考えるまでもない
昨日の夜は片づいていたはずのテーブル
「………おじさん……」
流しの方には、使われたばかりといった形跡の調理器具が無造作におかれている
怒ることもできずに、深くため息をつく
「……せめて、ほんの少しどうにかしてくれれば良いのに」
半端なままの朝食の跡は何かが起きたことを示している
「文句のいいようがないじゃない」
散らかったままのテーブルを見やり、とりあえず自分の朝食の支度に取りかかった

夕刻帰宅してエルオーネは、片づける暇がなくそのままにしていたダイニングへと直行した
「…………え?」
目に映ったのは、きれいに片づけられた室内
そして、隅のソファーに座る人影
………どうしようか……
疲れて眠っているその様子は、きっと起こしても起きない
複雑なため息を吐いて、エルオーネは天を仰ぎ見た
 

END