訓練


 
活気に満ちた音が聞こえる
楽しそうな人の声
その中で紛れる様に、金属が打ち合わされる音が聞こえる
高く澄んだ銃声
歓声に悲鳴
広い建物の中から、様々な音が聞こえてくる

すれ違う人々の視線を集めながら、ゆっくりと歩く
居心地の悪さを感じながらも足取りを速める事が出来ない
心の中で重いため息をつき
隣を歩く男に恨みがましい視線を送る

集まる視線を気にした様子も無く
まるで、歩き慣れた場所を歩くかの様に
軽快な足取りで、のんびりと歩を進める
まるで視線には気がないかの様に
物珍しげに辺りを見遣る

スコールは、怒鳴りつけようとする言葉を必死の思いで飲み込んだ
『魔女の脅威が消え去った世の中で、ガーデンという存在が脅威となっています』
スコールの脳裏をシドの言葉が蘇る
『ですから、ガーデン内を視察して貰おうと思います』
スコールも確かにあの時は、納得もしたし同意もした
だが……
鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、いつの間にか前を歩いている
世界各国へと招待状はばらまかれた
そして……

「それで、次はどこに行くんだ?」
のんきな声が、スコールを現実へと引き戻す
「…………………」
怒りを込めたスコールの視線をラグナはあっさりと受け流し、周囲へと視線を向ける
真っ先に招待に応じ、あっさりと姿を現したのは、ラグナのみだった
『貴賓ですから、ここはやはり……』
その上、理由にならない理由をつけられ、むりやり世話役を押しつけられた
「特に何もないんなら、ちょっと見たいモノがあるんだけどさー」
………今度は何だ?
先ほどからラグナに引き回される格好に成っていたスコールが、警戒した視線を向けた

肌になじんだガンブレイドの感触
『丁度良い機会ではありませんか?』
ラグナの無謀な提案を聞かされたシドはそういってあっさりと許可を出した
「がんばりなよ」
にこにこと笑いながらアーヴァインが声を掛ける
「……何をだ」
「……え……えっと…………」
不機嫌なスコールに問い返され、アーヴァインが困る
『エスタの奴と手合わせしてくんねーか?』
軽く告げたラグナの言葉
スコールの視線の先、部屋の対角の隅で、ラグナ達が何か話をしている
今更、兵士達と手合わせをする理由なんてない
「んー、でも何か考えがあるのかもしれないし………」
「そうね、わざわざ『なんでもあり』って聞いてたし……」
仲間達の言葉に、スコールは眉を寄せる
そうじゃない、手合わせをする必要自体が無い
以前エスタに行った際、ラグナの口車に乗って、エスタ兵の相手をした事がある
長い事話をしていた彼等が、こちらに向かってくる
「じゃあ、始めようぜ?」
そう言って、ラグナが不適な笑みを浮かべた

周囲を包む魔法のきらめき
それとほぼ同時に向かってくる刃
っ!
身を屈め交わした刃が通り過ぎる
「やっぱりひっかからなかったか」
刃のつぶれた稽古用の剣を持ち目の前に
「ラグナ様!?」
ラグナが立っていた
精神にまとわりつこうとする魔法の残骸
それを強引に振り払い、スコールはラグナへとガンブレードを向ける
無造作に振り上げられる剣
「ほら、やっぱり無理だったじゃねーか」
あっさりと、スコールの攻撃を受け止め
「もう一度チャレンジしてみたまえ」
キロスと会話を交わす
「んなこといってもよー」
ラグナは会話を続けながら、一瞬スコールの攻撃を封じて距離を開ける
剣を構え、表情が変わる
不意に辺りに漂う緊張感
仕掛けようとしていたスコールの動きが止まる
真剣な表情で、ガンブレードを構え直す
しばらくの間2人とも相手を牽制するかの様に微動だにしなかった

微かに動くラグナの唇
もし、気づいたモノがいたとしても、それは呼吸を整える動きに見えたかもしれない
それほど自然な動きで、ラグナは一つの魔法を唱えていた
先ほどと同じようにスコールに向けた魔法の発動
かかったか!?
今度は攻撃を仕掛けず、ラグナはスコールの動きを待った
一瞬嫌そうに眉を寄せ、スコールが踏み込んでくる

ラグナが掛けた魔法は発動しなかったらしく、身体に異常は感じられない
なんとなくむかむかした気分を抱え、スコールは足を踏み込んだ
!?
突如感じる違和感
なっ……
動きの違和感に、ほんの僅かに身体が泳ぐ
鋼が打ち合わされる澄んだ響き
手首に感じる鈍い痛み
呆然とするスコールの手からガンブレードが落ちた

「………つまりだ、魔法に対する人間の………」
淡々としたキロスの説明が続いている
スコールに掛けられたのは、動きを早める“ヘイスト”魔法
本人の意図しないところで掛けられた魔法は認識での差異を生み出す………
「だから、先に何するか言ったら意味がなかったんだって」
その部屋の隅でラグナは、不機嫌なスコール相手に懸命に説明を繰り返していた
スコールが感じた違和感は認識不足からの速度を上げたスピードがもたらした距離感の違い
「……………」
スコールは、ラグナを冷ややかに見つめる
「だから………………………悪かったって」
言い訳の言葉を途中でうち切り、謝罪の言葉を小さく呟く
『……………………」
長い沈黙の末、スコールが諦めたように深々とため息をついた
 

END