夏の予定


 
真夏のバラムガーデン、いつもの賑わいは影を潜めていた

人の気配の少ないガーデンは、現在夏期休暇の只中にある
学生達の大部分は、帰省もしくは、旅行に出かけ
ガーデン内には、行く宛の、帰る場所の無いほんの一握りの学生と、休暇を目前にしたSeeDのみが残っている
そんな夏の日の午後、SeeD達は偶然食堂で顔を合わせた
「なんだまだ誰も休暇に入ってなかったのか」
食堂内で顔を合わせ、誰が誘うわけでもなく、同じテーブルについた仲間達が誰1人として欠けていない事を確認し、ゼルが呟く
「今回はみんな似たような時期に休暇に入るはずだわ」
「へーめずらしいね」
SeeDとして、入れ替わり立ち替わり任務についていた彼等がほぼ同時に休む
「それだけ平和になったってことだよね」
彼等が待機していなくても大丈夫な世の中になった
「だと良いけどな」
本当にそんな世の中になるのはきっとまだ時間が掛かる
ほんの小さな淡い希望を否定する言葉に彼等の口から重いため息が漏れる
「……こういう時は、嘘でも『その通り』くらい言わないとダメだよ」
アーヴァインの言葉に仲間達は一斉に頷いた

「……僕はガルバディアに行って来るよ」
「セルフィと一緒にトラビアに行くって言ってなかったか?」
「私、休み入るのちょっと遅いんよ、だから後で合流〜」
「なんだ、やっぱり一緒なのかよ」
「そういうゼルはどうなんだよ」
「俺?とりあえず家に帰って…………特に予定はねーや」
食事をそっちのけで休暇の予定を話す彼等の中で、スコールは1人黙々と食事を続けていた
「キスティスは、どうするの?」
「私?そうね。特に予定もないし、ガーデンで待機してるわ」
「えー、なら一緒にトラビアに……」
セルフィの言葉に慌てた様子のアーヴァインを横目に見ながら
「遠慮しとくわ、それに、もしもってことがあるから……」
キスティスは誘いを断る
「そんな、せっかくの休み……」
「そう言えば、スコールは休みの間何をしてるんだい?」
尚もキスティスを誘うセルフィの声を遮るように大声でアーヴァインがスコールへと話を振る
「………………………」
食事を終えたスコールがゆっくりと手を止める
小さな音を立てて、食器が音を立てた
「そういえば、まだ班長の予定、聞いて無かったね」
好奇心に満ちた眼がスコールに向けられる
「………………」
長い沈黙、尚も向けられている視線
「そういえばそうだよな、何か予定あるのか?」
視線を振り切り、食器を手に立ち上がろうとしたスコールに掛けられる追い打ち
四方から注がれる視線の圧力に負け
「……帰る」
小さく呟くと、逃げるように席を立ち歩き去る
「……………………」
残された彼等の中に訪れた沈黙
「………帰るって………どこに?」
足早に過ぎ去る背中に問いかけの声がぽつりと漏らされた

「スコールいつ頃帰ってくるんだろうな」
ソファーに寝ころびカレンダーを眺めていたラグナがわくわくした様子で問いかける
「えー?スコール来るって言ったの?」
特に連絡を受け取っていないエルオーネは慌ててラグナの顔を覗き込む
「いや、別に特に無いけどよ?」
休みに入ったなら帰ってくるだろ?
当たり前といったラグナの口調にエルオーネは内心ため息をつく
そうとも限らないと思うけどな

―――数日後、エスタ大統領官邸、玄関前にスコールの姿があった
 
 

END