夢朧


 
夢を見た
悲しそうに笑う、夢を見た
 
あでやかに咲き誇る花々
花に囲まれたこの場所は、彼女が眠る地に相応しい
この場所の主を守る様に咲き誇る花々をかき分け
その墓石の前へと立つ
甘い匂いが辺りを漂う
咲き誇る花の匂い
花に触れていた、彼女の香り
跪き、石をなぞる指先に感じる冷たい感触
閉じた目に、浮かぶ面影
優しく笑いかけるその表情
夢とは違う彼女の、笑み
 
「……仲良くやってるぜ」
いつも通りの近状報告
土の上に座り込んだ彼の姿を生い茂った花が隠す
「最近は、さ………」
低く静かな声が、風にさらわれる
幾度と無く、繰り返された光景
低く聞こえる人の声に、丘を登ろうとした村人が足を止め、踵を返す
『そうなの?』
いつもの様に聞こえる幻聴
楽しげな声
そして…………
「……………………ごめんな」
 
優しく過ぎて行く時間の中で
楽しそうに笑う俺達が居る
もし、魂がここにあって
今、この時間を見つめているのならば
これほど悲しく辛い事はないだろう
そこに自分が居ないのだから
 
夢の中で悲しげに笑う顔
寂しさを含んだ声
『レイン……』
引き寄せられるように伸ばした手は届かない
そんな夢を、幾度も見た
 
まとわりつくように風が舞う
風の中に含まれた花の香り
身体を包み、頬を撫でる
『……………』
優しい声が聞こえた気がした



 

 End